少林サッカー


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

かつては人気サッカー選手だったが、脚を折られて選手生命を失い、今はすっかり落ちぶれている初老の男ファン(ン・マンタ)。少林拳法を広めるべく日夜奮闘するも、屑拾いをして日銭を稼いでしのいでいる”鋼鉄の脚”を持つ若者シン(チャウ・シンチー)。2人が出会ったときに互いの思惑が一致して、少林拳法を使った史上最強のサッカーチームが誕生する。


香港では国民的人気コメディアンのチャウ・シンチーが監督(リー・リクチーと共同)と脚本・主演している作品は、異常に誇張された少林拳法の技の数々が、特撮を多用したナンセンスな笑いを生み出している快作である。


かつては一緒に修行したというのに、少林拳法を広めるどころか己を見失ってしまった同士達に声を掛け、チームを結成するのが前半。笑えるものの不要な場面やギャグもあって泥臭く、物語のテンポを損なっている。しかし拳法の達人たちが技を思い出し、異様に強い技を繰り出す辺りから、映画も調子が出てくる。特に映画の後半は試合場面が多くを占め、珍場面の数々に笑うしかない。熱い想いで瞳が炎と燃え、ワイヤーワークで空を飛び、足技で超人的ドリブルも決まり、蹴ったボールは炎の虎となり敵ゴールに突き刺さり、勢いの凄まじさに芝生に航跡を残す。・・・と、その凄いこと凄いこと。かつての熱血スポ根漫画を実写化したらこうなるのでは、というイメージ通りの描写に、唖然呆然大爆笑だ。映画全体に散りばめられたパロディもいちいち可笑しく、マイケル・ジャクスンの『スリラー』、『ジュラシック・パーク』(1993)、『プライベート・ライアン』(1998)、それにブルース・リー等、映画ファンには嬉しいおかずがいっぱい。予告で面白い場面は全て出尽した映画が多い中、本編がそれ以上に見せ場がてんこ盛りなのは有難い。


そんなこんなで少林チームは全国サッカー大会で連戦連勝、ファンと因縁のある悪辣な男ハン率い、るステロイドで肉体強化したハイテクチームとの優勝決定戦に雪崩れ込む。


笑える一方で気になるのが、人物描写が大雑把でいい加減なところ。主人公であるシンの行動には十分納得がいくが、監督となるファンの心情が伝わりにくい。何となく分かるのではあるが、こういった部分は泥臭くともきっちりやった方が良い。映画の序盤ではシンとファンの物語なのに、いつの間にやらファンは置き去りにされた感があり、ラストのカタルシスにも影響を及ぼしてしまっている。作り手は笑いに注意を取られてぞんざいになったのだろうか。


一方、なぜ少林拳法の達人たちがサッカーチームに加入したのか、という心理的動機に関しては、”鉄の頭”(ウォン・ヤッフェイ)を徹底してダメ男として描いている前半に集約されていて、シンと太極拳の使い手の吹き出物少女ムイ(ヴィッキー・チャオ)との恋模様の描き方も含め、手際の良さを感じた。


そして最大の疑問、これはスポーツ映画なのかどうか、ということ。結論から言うと、僕はこの映画をスポーツ映画だとは思わなかった。理由は単純明快、肝心のスポーツの魅力が殆ど描けていないから。フィールド内で超人サッカーを見せて楽しませてくれても、それが肉体の躍動感という意味でのスポーツ自体の魅力とは直結していない。映画の売り物である特撮の魅力が、肉体の存在感を希薄にしているからだ。また、スポーツをするということはどういうことなのか、という心理的側面に迫っている訳でもない。主人公達が元々少林拳法の達人だから、彼らのサッカーに対する想いが無いのは良しとして、シン以外には少林拳法に対する想いすら描けていない。いや、単なる娯楽映画だからそこまで迫れとは要求しないが、映画の根底に関わるテーマの筈なので、さらりとでも描いて欲しかった。


だからこの映画は、キワモノ映画、見世物アクション映画として単純に楽しむのが正しい見方だろう。観客が期待している”超人的技の数々”を見せる場面は、香港映画らしくサーヴィス満点とばかりにたっぷりある。映画全体にパワーがあるので、何のかんの言ってもクライマクスは思わず声援を送りたくなるし、ラストのオチも決まり、単純に面白がるだけならば大変楽しめる映画だった。


少林サッカー
少林足球 Shaolin Soccer

  • 2001年 / 香港 / カラー / 109分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG for martial arts action and some thematic elements. (Edited Version)
  • 劇場公開日:2002.6.1.
  • 鑑賞日時:2002.6.1.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘2/ドルビーデジタルでの上映。映画の日、公開初日の土曜レイトショー。280席の劇場は満席。試合場面では少林チームが得点と決めると拍手が起きたり、ノリも宜しかった。
  • パンフレットは600円。チャウ・シンチーの来日模様・記者会見・イタヴューなど。日本では一般に無名に近いシンチーを売り出そうとする意気込みが感じられます。
  • 公式サイト: http://www.shorin-soccer.com/ 予告編、フォトギャラリー、壁紙、スクリーンセーバー、ブロードバンド用にチャウ・シンチーと素顔のヴィッキー・チャオ(美人!)の舞台挨拶など。舞台挨拶での司会は、吹替え版でシン役の山寺宏一です。