高慢と偏見


★program rating: A+
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ヘレン・フィールディング原作によるその映画版『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)はこんな物語だった。最初は嫌な男として登場する弁護士マーク・ダーシーに対するブリジットの第一印象は最悪で、軽薄プレイボーイの上司(ヒュー・グラント)と付き合い始めるが、実はダーシーは・・・という展開だった。その元ネタとなったのが、このミニ・テレビ・シリーズ。本国イギリスで大ブームを巻き起こし、放送時間帯には街から人が消えたと言われたとか。原作でもブリジットたちが夢中になっていたり、主役のコリン・ファースにブリジットがインタヴューする場面もあるらしい。


コリン・ファース・・・そう、映画版『ブリジット・ジョーンズの日記』でマーク・ダーシーを演じていた彼である。『アナザー・カントリー』(1984)でルパート・エヴェレットの相手役だった元祖英国美少年だったこともある彼だ。ファースはミスター・ダーシーを都合2回(?)演じていた訳で、これはヘレン・フィールディングが『高慢と偏見』のコリン・ファースを念頭にマーク・ダーシーを書いていたから。フィールディングが製作総指揮をしていた映画版で、ファースがキャスティングされたのも、彼女の主張らしい。いやはやミーハー冥利に尽きるのではないだろうか。


では、何故『高慢と偏見』に熱を上げた女性が続出したのだろうか。実際に見てみると分かるが、単純に出来が良く、しかも面白いからである。


この『高慢と偏見』は、BBCが製作した6時間放送、正味5時間という大作。田舎に住む中流階級のベネット家の次女エリザベスは、舞踏会でダービシャーの貴族の末裔、若き大富豪ダーシーと知り合うが、ダーシーの高慢且つ辛辣な態度に反感を持ってしまう。その第一印象を引きずるエリザベスも最後はその偏見も消えてダーシーの本当の姿を知り、愛も芽生えてめでたしめでたし、となる。


冒頭の若き富豪2人が馬で登場する場面から快調で、そこから始まるベネット家の姉妹と金持ち紳士たちとの恋愛劇は、活きの良い丁丁発止の会話劇。紆余曲折はらはらさせながらも、最後は落ち着くところに落ち着くパターンに沿っていても、出来が良いのだ。


この作品は、定番の展開も見せ方によって観客を引きつける見本だ。テンポも良く、全体に漂うユーモアも楽しく、長い時間を全く飽きさせない。脚色も相当上手いのだろう。その脚本家アンドリュー・デイヴィスは、映画版『ブリジット・ジョーンズの日記』のライターの1人だ。長時間のお陰で脇役や当時のイギリス上流社会の様子が細かいところまで描かれている。これは映画では出来ない、テレビならではの長所だ。


登場する屋敷や衣装も豪華で素晴らしく、ロケーション撮影やカール・デイヴィスの音楽も美しい。このように道具立ても完璧、恋愛劇をより一層盛り立てている。現代人からすると現実的でない世界で繰り広げられる、ヒロインと理想的な白馬の王子様との恋は、21世紀では良く出来たファンタシーなのだ。その一方で、風評に流されたりすることの愚かさ、人の言動は単なる見かけだけの場合もある、といった人間に対する洞察も中々鋭い。またダーシーに限らず、登場人物は皆”紳士らしく””淑女らしく”を気にしており、ここいら辺は現代のイギリスにも受け継がれている部分もあるのではないだろうか。


驚かされるのが主人公エリザベス・ベネットの造形だ。朗らかで聡明且つ辛辣なユーモアの持ち主で、実力者の前でも臆することなく堂々とし、自己主張もするところはする。非常に現代的な人物像だったのでびっくりしてしまった。演じるジェニファー・イーリーも魅力的、物語の展開と共に段々と美人に見えてくるのだから不思議だ。
一方で相手役の若き大富豪ミスター・ダーシーの、自分を抑えようとして生きている様が英国紳士の典型を思わせる。本当は誠実で友人の為に自らの骨を折ることも厭わないのに、つい高慢な態度を取って本性を隠してしまう。演じるコリン・ファースはチャーミングで完璧、多くのイギリス女性(だけでなく、日本女性も)夢中になったのは分かる気がする。


周りの登場人物も面白い。特に面白いのがベネット一家の両親。父親のベネット氏は聡明で辛辣なユーモアの持ち主だが、母親ベネット夫人はその正反対。陽気で軽はずみで思い込みが激しく、かなり笑わせる。よくもこんな夫婦がくっついたものだと思わせるが、一方でこういう夫婦もあるだろうなとも納得させる。ヒロインも両親から聡明さと辛辣さ、思い込みの激しさをそれぞれ受け継いだようで、これまた面白い。


当時の女性は父親の遺産を相続出来ず、だから金持ちと結婚するしか幸せはなかったという、女性にとってつらい背景を事前に理解しておくとより良いだろう。母親のベネット夫人が娘たちに結婚させようと躍起になるのも、ある程度仕方が無いことだったのだ。


原作は1813年に出版された、イギリスの作家ジェイン・オースティンによって書かれたもの。『自負と偏見』でのタイトルでも邦訳が出ている。ここ数年、立て続けにオースティンの小説が映画化され、『エマ』(1996)や『いつか晴れた日に』(1995)などはご覧になった方もいるだろう。また、アリシア・シルヴァーストーン主演の『クルーレス』(1995)という現代アメリカの高校を舞台にしたコメディは、『エマ』を翻案したものだ。いずれも似たような展開で、最後には若いヒロインが身近にいた男性が理想の相手だったと気付く。現実にはオースティンは姉と共に結婚することもなく、また41歳で病死したのだから、物語は彼女の理想の男性像・結婚像を描いたものなのだろう。しかし当時は女性が本を書くなどというのは破廉恥なことだったらしいので、作者本人が進んでいた人だったに違いない。


高慢と偏見
Pride and Prejudice

  • 1995年 / イギリス / カラー / 300分 / 画面比:1.33:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):(劇場未公開)
  • 鑑賞日:2001.5.6., 2001.5.12.自宅(DVD-VIDEOでの29インチテレビによる視聴)