スパイダーマン


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


スパイダーマンのスーツは、主人公が自分でデザインして手作業で作ってたって、知ってた?


一昨年に映画化された『X-メン』(2000)に引き続き、アメリカン・コミックの老舗DCコミックからスーパーヒーローの真打登場だ。一時はジェームズ・キャメロン監督・脚本として準備されていたが、紆余曲折を得てサム・ライミ監督の手により完成した。1978年から1年間、東京12チャンネルにて日本版の30分テレビドラマとして放送されていたのをご記憶の方もいるだろう。そんな訳で、ちょっと懐かしい思いで観て来た。


映画は一目でカイル・クーパー(『セブン』(1995)、『ハムナプトラ』シリーズ)によるものと分かる、相当に格好良いタイトル・デザインで始まる。ダニー・エルフマンの音楽はリズムを前面に押し出す得意のスタイルだが、最近のエルフマンはどうもメロディ・ラインに欠け、初期の『バットマン』(1989)、『ディック・トレイシー』(1990)といったヒーローものに比べても劣っているのが残念。


さて本編の主人公は、いじめっ子の格好の標的にされている冴えない高校生ピーター・パーカー(トビー・マグワイア)。隣人である幼馴染のMJことメリー・ジェーン(キルステン・ダンスト)に想いを告げることも出来ない、内気な青年だ。その彼が遺伝子操作された蜘蛛に噛まれ、以来超人的な運動能力と力を身に付ける。


映画の前半は、正義の味方スパイダーマン誕生までがユーモアを交えて描かれ、ライミ監督の手腕が光る。作品で”スパイダーマン”誕生場面が、お金目当ての懸賞付きプロレスリング会場というのも笑わせる。ピーターとMJ、ピーターの唯一の親友ハリーとの三角関係まであり、主人公が色々悩みながらも成長していくというプロットは、まるで正統派青春映画だ。その上人物描写が丁寧なので感情移入がし易い。ライミ自身が『シンプル・プラン』(1998)、『ザ・ギフト』(2000)といったドラマ志向の強い作品で鍛えられた成果だろう。この前半は文句無しに面白く出来ている。


正体不明のスパイダーマンが人命救助で沸かせるニューヨークに、時同じくして宇宙服に身を包み、マスクをして空を飛び回るグリーン・ゴブリンなる怪人物が、破壊の限りを尽くす。映画の後半はスパイダーマン対グリーン・ゴブリンの対決になり、予想通りに派手な場面が続出する。ジョン・ダイクストラ(『スター・ウォーズ』(1977)、『スチュアート・リトル』(2000))指揮によるCGIを駆使した視覚効果が大活躍、スパイダーマンが手首から放出される蜘蛛の糸を使って摩天楼の谷間を飛び回る映像など、爽快感満点だ。


映画とは面白いもので、スパイダーマンのアクション場面は殆どがCGIだと分かるにも関わらず、難癖付けるより先に爽快さを感じてしまう。特にびゅんびゅん跳び回るスパイダーマンを捉えた映像が凄い。こんなキャメラワークが可能なのも、CGI技術の進歩が成せる技。特撮の完成度とは技術力に裏打ちされたものだが、時には完璧な技術でなくても迫力等を出せるのというも面白い。合成が粗かったのに手に汗握らせた、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)を思い出しました。


けれども、そういった見せ場に事欠かなくとも、”何だか展開が『スーパーマン』(1979)に似ているぞ”と気付いた途端に、僕はデジャヴュに陥ったような錯覚にとらわれた。これがこの映画最大の問題だろう。手垢の付いたヒーローものをどうやって見せるのか、ある程度パターン化しているジャンルとはいえ、何とかもう一工夫してもらいたかった。これが難しいのは分かるのだけれど。


期せずして驚異的能力を手に入れた青年を、マグワイアは持ち前のぼうっとした雰囲気の中で演じている。その中に決意をにじませたりで、相変わらず上手い。この人の長所は演技しているんだかしていないんだか良く分からない、自然なところだが、今回はまさかのヒーロー役。それが時折見せる力強い表情が意外にもはまっていて、”親近感の持てるヒーロー”というコンセプトにぴったり。このキャスティングは大成功だった。一方、野心的な天才科学者だが、気の弱い面もある男を演じるウィレム・ダフォーも、善と悪の両方を顔面演技で大熱演。こちらは本人もかなり楽しそう。


MJ役キルステン・ダンストは”Girl next door”そのままで、『チアーズ!』(2001)ほどでないけれども魅力的。凄い美人でなくとも、元気の良さと内面の魅力で見せるのだ。喜怒哀楽の激しい演技が、ぬぼーとしたマグワイアとの取り合わせも良い。相性の良さはロマンティックな雨中のキス・シーンでも証明済みだ。


映画全体を支えるのは、ライミ監督のパワフルかつ愛情のこもった演出。時折スパイダーマンが見せる見得を切ったようなポーズといい、丁寧な演出といい、躍動感と良い、ややありきたりの展開には勿体無いくらい力が入っている。『死霊のはらわた』シリーズや、『ダークマン』(1990)といった歯茶滅茶なノリとまでは行かないが、地味なドラマ映画続きだった最近の中で一番活き活きしている。2004年公開予定の続編では、さらに調子を上げるかも知れない。


そんな訳で、ラスト・シーンのちょっと意外なピーターの行動を観ると、なおさら次回作に期待させてしまうという風に、これはある意味ずるい映画でもあるのだ。


スパイダーマン
Spider-Man

  • 2002年/アメリカ/カラー/125分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for stylized violence and action.
  • 劇場公開日:2002.5.23.
  • 鑑賞日時:2002.5.18.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1/SDDSでの上映。先行レイトショー第3日目(3日間もあるのは珍しい)、452席の劇場は完売だった。上映前は珍しく余興(?)が。スパイダーマン・マスクを被ったスーツ姿の、劇場員だか配給会社の宣伝部員だかが登場、くじ引きで景品を上げるというものだった。その人も場内もエラいノリが良く、楽しめた。
  • パンフレットは500円、日米同時公開で、映画が完成したのも数週間前だったからか、大作にしては薄いもの。アメコミの造詣の深い評論家・小野耕生による、自らとスパイダーマンとの関わりについて書かれた文章が、愛情深く感じられます。
  • 公式サイト:http://www.spider-man.jp/ 予告、壁紙、スクリーンセーバー、BBS、執筆者が交代で書くコラム「Spidey Columns」など。ゲームは難し過ぎでちょっと・・・。
  • エキサイトのスペシャル・サイト:http://spider-man.excite.co.jp/ 熱狂的スパイダーマン・コレクター、大森はじめ東京スカパラダイスオーケストラ)、竹中直人、来日したサム・ライミの音声付座談会があります。画像は10秒に1コマ動く殆ど静止画ですが、まるまるノーカット、50分弱もあります。大森のコレクション写真がアップ予定なので、これは楽しみ。