アザーズ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

第二次大戦直後の霧に包まれたイギリスの孤島にある屋敷では、戦場から戻らぬ夫を待つ妻(ニコール・キッドマン)と、幼い2人の子供がいた。そこに3人の召使たちがやって来た。子供たちは重度の光アレルギーで、日光に当たると生命に危険さえ及ぶ身体。その為に屋敷内は日中でもカーテンが引かれている。また、カーテンを引いていない部屋に子供が間違って行かないように、使用人達はいちいち鍵を掛けてから別の部屋へ移動しなくてはいけないのだ。そんな閉鎖的状況の中、屋敷内で何者かが立てる物音が聞こえてくるようになる。


先ほどトム・クルーズ主演で『バニラ・スカイ』(2001)としてリメイクされた『オープン・ユア・アイズ』(1998)のアレハンドロ・アメナーバル監督・脚本作品は、『オープン〜』に惚れ込んだトム・クルーズが製作を買って出て、撮影時は自分の妻だったニコール・キッドマンを主演に据えて撮らせた監督第3作目。これが若手らしからぬ堂々たる仕上がりになっている。


何よりも特筆すべきは、登場したはなから気に障るニコール・キッドマン神経症演技だ。ブロンドも美しい、往年の大スターと同じくグレイスという名前を持つ役の彼女は、甲高い声に常に張り詰めた表情。最初は少々大袈裟ではないかと思ったが、屋敷の状況が分かるにつれ違和感が無くなる。後にその演技も実は物語の重要な要素だと分かるのだ。彼女の高い声が観客の神経を逆撫でし、微妙にいたぶる。その声までもが音響設計の1つとなっているのだ。効果音の移動等による脅しの効果も含め、全体に音響設計は緻密に出来上がっていて、やはり映画の音は重要だと思わせる。またアメナーバル自身の手による音楽も、故バーナード・ハーマン(『サイコ』(1960)、『タクシードライバー』(1976))を意識したような感じだが、映像に寄り添うように盛り上げる。観る際は是非、音響の良い劇場でどうぞ。


この映画で優れているのは主演女優の演技と音響だけではない。姉に見えて弟には見えない”何か”、その見えそうで見えない恐怖を、画面の構図でも表現している。殆ど屋内で展開され、登場人物も限定されたドラマにも関わらず、要所で挿入される動的なキャメラ・ワークの使い方が上手な為に、映画としての魅力を失わない。子役達の演技も自然で、そういった音響・映像・演技指導も含めて演出は自信たっぷり。階上の足音や真夜中に1人で鳴るピアノといった手垢の付いた古臭い道具立てを敢えて使うのも、その自信の表れだろう。


しかし物語に関して言えば、僕は序盤で予想が付いてしまいまった。それでも観ている途中で気にならないのは、作品の持つパワーのなせる技。正攻法の格調高いゴシック・ホラー演出には見るべき点も多く、血や暴力に頼らなくとも恐怖をたっぷり味あわせてくれる。中でもアメナーバルの演出が一番冴えるのが、恐怖が最高潮に達したクライマクスにおいて1ショットで全てを解き明かし、そこから一挙にラストシーンに雪崩れ込むくだり。ここのタイミングは鮮やか。特にラストはキッドマンの好演も手伝って、忘れがたい場面になっている。


スタイルは非常に魅力的であり、しかも内容がおろそかにされていることはない。ヒロインの子供達に対する愛憎入り混じった感情が物語の根底にあり、それが観客の心を揺さぶるのだ。宗教に頼りきっているヒロインを責めるのは簡単だが、ここには彼女がそうせざるを得なかったと納得させるだけの説得力がある。この映画が感動的なのは、そういった母親の心情がきっちりと描かれているから。計算ずくの単なるホラー映画としても楽しめるが、この作品にはそれ以上のものがあるのだ。


さて個人的に良い思い出となったのは、「ひぃ」と言いそうなくらい恐ろしい場面の後に、劇場内で思わず笑いが起きたこと。かく言う僕も笑った1人。こういう体験はビデオ鑑賞では得られない、劇場ならではの中々に珍しい体験だった。


人里離れた屋敷内での怪談ということで、僕自身はヘンリー・ジェイムズの小説『ねじの回転』を映画化した傑作『回転』(1961)を思い出した。同作は僕が今までに観た中で一番怖かった映画。深夜の書斎にふぅっと浮かび上がる人影など、モノクロ映像ならではの恐ろしさ。こちらも機会があったら、是非夜中に1人で観ることをお勧めする。


アザーズ
The Others

  • 2001年 / アメリカ、スペイン、フランス、イタリア / カラー / 104分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for thematic elements and frightening moments.
  • 劇場公開日:2002.4.27.
  • 鑑賞日時:2002.4.27.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘3/ドルビーデジタルでの上映。公開初日、土曜夜のレイトショー。237席の劇場はチケット完売。
  • パンフレットは700円、縦長の変形サイズで上部の数センチが袋綴じになっている変り種。無論、そこの部分にはネタバレを含んでいますので要注意です。
  • 公式サイト:http://www.others-jp.com/ スタッフ&キャスト紹介、プロダクション・ノート、アメナーバルからのメッセージ、予告編など。パンフレットとダブっている内容が多いが、ここにあるゲームは映画の雰囲気も良く出ていて、最初は怖い。クリアすると景品が当たるそうです。クリアしてアメナーバルの処女作『テシス/次に私が殺される』のDVDを申し込みましたが、さてどうなるか。