光と闇の伝説 コリン・マッケンジー(『コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス』改題)


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


ロード・オブ・ザ・リング』(2001)で一挙に知名度が上がったニュージーランドの監督ピーター・ジャクソン。昨年ひっそりと公開されていた共同監督作品『光と闇の伝説 コリン・マッケンジー』が、『ロード・オブ・ザ・リング』大ヒットのお陰でタイトルを変えて再公開された。見逃していた向きには有難いこと。いそいそとレイトショー初日に行ってきた。


昨年2001年の初公開時は『コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス』という邦題だった。タイトルになっているD・W・グリフィスとは、サイレント映画時代に『イントレランス』(1916)や『国民の創生』(1924)といった超大作を残した、アメリカの伝説的映画監督のことだ。


この作品は、今世紀初頭にニュージーランドで活躍した幻の映画監督コリン・マッケンジーを追ったドキュメンタリだ。ひょんなことから彼の残したフィルム缶が見つかり、そこには失われた超大作『サロメ』のフッテージの一部があった。これはあらゆる映画史を覆す大発見。たまたま未亡人の親戚だったピーター・ジャクソンは、友人である映画監督コスタ・ボーテスと共に『サロメ』を追う。


ニュージーランドの映画史はまだまだ浅いと思っていたら、それより遥か以前に知られざる天才監督が実在したことに、俳優サム・ニールも驚きを隠せない。映画はサム・ニールのみならず、映画ガイドブック『TV Movies』等で著名なアメリカの映画評論家レナード・マルティンや、アメリカの独立系映画会社ミラマックス社長ハーヴェイ・ワインスティンらのインタヴューを収録し、驚きと共にマッケンジーを再評価する。


機械いじりが得意だったコリン・マッケンジーは独学で映画撮影用カメラを作り、やがてトーキー化も成功、さらにはカラー映画をも発明する。弟と設立した記録映画会社が大成功、資金を得た彼は長編劇映画の製作に取り掛かりる。それが歴史スペクタクル『サロメ』なのだ。女優である最愛の妻をヒロインに据え、実物大の古代イスラエルの巨大セットを山奥に作り、大勢のエキストラをかき集め、いよいよ撮影に入る。しかし映画は完成を目前にして、製作資金トラブルの為に製作中止となってしまう。生命の危険まで迫ったコリンは国外に逃亡し、その後の足取りは不明になる。そして『サロメ』は誰の目にも触れられることなく幻となってしまったのだ。


コリン・マッケンジーの波乱万丈の人生が、残された当時のフィルムや未亡人らのインタヴューを通して浮かび上がり、観客は固唾を飲んでスクリーンを見守るしかない。


この映画最大の山場は、今やジャングル奥地に埋もれた『サロメ』のセットを求め、ジャクソンらの探検隊が進む場面だ。苦労してジャングルを切り開いて進み、やがて一行は石の建造物を見付ける。木々を切り落とすと、そこに姿を現すのは巨大なセット。そして奥の部屋にある石櫃に、誰も観た事が無い「サロメ」の未編集フッテージが隠されていたのだ! 懐かしや川口浩探検隊のノリで見せられるこのクライマクスには心躍る。古代遺跡で発見された宝物を見つけたかの如く喜ぶ隊員達。そして映画は編集された『サロメ』復刻版上映という、感動のフィナーレを迎える。


映画に夢を追った天才を見つめるこの映画そのものに、魔法と夢が宿っている。コリン・マッケンジーの情熱と、彼を追うジャクソン&コーテスらの情熱が観客に伝わり、このドキュメンタリは証明する。映画とは情熱の賜物であり、それが観客を感動させ得るのだと。実はこの映画自体がジャクソン&コーテスの大ぼらで、徹頭徹尾エンドクレジットに至るまでドキュメンタリタッチの振りで通していて、細部に至るまでのこだわりに映画への愛情と、そして母国への愛情が感じられるのが素晴らしい。


機会があったら、是非お見逃し無く。


光と闇の伝説 コリン・マッケンジー(『コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス』改題)
Forgotten Silver

  • 1996年 / ニュージーランド / モノクロ、カラー / 53分 / 画面比:1.66:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):-
  • 劇場公開日:2002.3.8.
  • 鑑賞日時:2002.3.8.
  • 劇場:渋谷シネパレス/ステレオでの上映。改題しての公開初日、金曜夜のレイトショー。216席の劇場に観客はうちら夫婦を含めて7〜8人程度。
  • パンフレットは無く、小さいチラシのみでした。
  • 公式サイト:http://www.pan-dora.co.jp/korin01.html 『コリン・マッケンジー/もうひとりのグリフィス』として紹介されています。主要スタッフ、インタヴューを受けている人達の紹介など。サイトとしてはたった2ページでも、こんな小品をきちんと紹介している配給会社パンドラは偉い。