コラテラル・ダメージ


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


舌を噛みそうで覚え難いこのタイトル、配給会社はもっと良い邦題を考えなかったのだろうか。意味は”目的の為の犠牲”といったところらしいが、2001年の9.11.のテロにより公開延期となった、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の新作アクションだ。


テロによる巻き添えで妻子を失った消防士(シュワ)。犯人である南米コロンビアのテロリスト”ウルフ”(クリフ・カーティス)を、FBIやCIAが捕えられないことに業を煮やした彼は、復讐の為に単身コロンビアに乗り込む。


・・・と聞くと、至極単純なアメリカらしい独善的な勧善懲悪ものに聞こえそう。いや実際、映画の序盤はそのような感じで進むのだが、シュワが南米に乗り込んでからはちょっと様子が変わってくる。内戦により至る所で虐殺が頻繁に行われ、そこにアメリカがずかずか乗り込んで来て荒らし回る現実。先の『ブラックホーク・ダウン』(2001)ともども、アメリカが海外で何をやっているのか、アクション映画の範疇で触れようとするのは興味深い現象だ。そんな劇中で、登場人物の1人が南米でアメリカが行っていることを「テロだ」と言い切るのは軽い驚きだった。自国で人殺し=テロを行うアメリカに対して、テロで報復するのは当然だ、とテロリストの論理をはっきり述べるのだ。しかしこの映画に限界があるのも事実で、これ以上の政治的に深い考察を期待するのは、残念ながら望むべくもない。飽くまでも娯楽アクション映画の一要素にしか過ぎないのだ。


シュワの不死身振り共々、デヴィッド・グリフィスとピーター・グリフィスの脚本は細部が非常にご都合主義的でいい加減。さらに最後にもう1つ山場が欲しかった。そういった細部の詰めの甘さがこの作品をB級たらしめていても、あの肉体でうむを言わさず堂々と通し、”取り敢えず”何となく納得させるのはさすがシュワ映画だ。いや真面目な話、シュワ映画という独自なジャンルがあると思うのは僕だけだろうか。平凡なスターだったら噴飯ものの場面でも、下手な説明をせずに貫き通して見せる、これは他のスターに無い資質だ。相変わらず演技はお粗末だが、それでも見せるのだから、シュワはやはり大スターなのだ。


それでも僕がこの映画を予想以上に楽しめたのは、プロットにきちんと工夫がされているから。製作総指揮ニコラス・メイヤーの趣味なのだろうか。メイヤーといえば、ホームズがコカイン中毒でフロイトの患者になる『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』(1976)の原作・脚本や、H・G・ウェルズ切り裂きジャックが原題のアメリカにタイムスリップする脚本・監督作『タイム・アフター・タイム』(1979)といった、捻りの効いた小品を思い出す。その彼とシュワ映画の結びつきに軽い驚きを感じたものの、この作品に貢献があるのではないかと勘ぐってしまった。


そしてここはベテラン職人派監督の堅実な演出が、作品にささやかながらも格を与えている。『野獣走査線』(1985)、『ザ・パッケージ/暴かれた陰謀』(1989)、『沈黙の戦艦』(1992)、『逃亡者』(1993)といったアクション・スリラーで、派手さやケレンは無いけれども確実にスリルを盛り上げ楽しませてくれたアンドリュー・デイヴィス監督の持ち味が、この作品にも出ている。盛り上がるべき終盤で盛り上げているのは当然だが、だらだら長い最近の映画の多い中、1時間50分弱の上映時間という娯楽映画としての節度も守っているのは喜ばしいことだ。


こういった要素が、出鱈目な細部や、ジョン・レグイザモジョン・タトゥーロといった曲者実力派の大して意味の無い出演、グレイム・レヴェルの予想通りに面白く無い音楽といったマイナス要素にも関わらず、娯楽映画としての平均をクリアしているのだ。


製作費はA級でも中身はB級なアクション映画にシュワが出ること事体、一抹の寂しさを禁じ得ない。それでも、不調のきっかけとなった(?)『Mr.フリーズの逆襲/バットマン&ロビン』(1997)以降の作品の中で一番楽しめた。最大の理由はアクション場面の殆どが、主にシュワの肉体に頼っているからだ。それが最近の特撮を駆使した大作を見慣れた目には、さらにB級映画らしく見えてしまうのが事実だとしても。元々人間離れした鋼のようでありながら妙に愛嬌のある肉体と、特撮との相性が良いとは言え、最近は特撮に頼りがちだったシュワが、かつての本分に戻ったという点で、復活の光が垣間見えたような気がする。


コラテラル・ダメージ
Collateral Damage

  • 2002年 / アメリカ / カラー / 108分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for violence and some language.
  • 劇場公開日:2002.4.19.
  • 鑑賞日時:2002.4.21.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘6/ドルビーデジタルでの上映。公開2日目、日曜朝の回、170席の劇場は約半分の入り。朝一だったからかも知れないが、かつてのシュワ作品公開当時の勢いからすると随分寂しい入りだった。
  • パンフレットは500円、スタッフ&キャスト紹介、シュワへのインタヴュー、プロダクション・ノート、9.11.とハリウッドについて等、全体に簡潔にまとめています。
  • 公式サイト:http://www.warnerbros.co.jp/collateraldamage/ キャスト紹介、予告等。ここもシュワ主演作にしては寂しい規模。