シッピング・ニュース


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

放蕩妻(ケイト・ブランシェット)は家出した挙句に事故死し、一人娘と残されたクオイル(ケヴィン・スペイシー)は、叔母アグニス(ジュディ・デンチ)と共に、ニューファンドランド島にある先祖代々の家に移住する。新聞記者となった彼は「港湾(シッピング)ニュース」というコラムを担当、やがて一家の忌まわしい過去を掘り起こしてしまう


サイダーハウス・ルール』(1999)、『ショコラ』(2000)と、最近中々好調なラッセ・ハルストレム監督作品は、E・アーニー・プルーのピュリッツァー賞受賞の小説を映画化したもの。その実悲惨な話の筈をユーモアを塗し、無気力な男が暗い過去を発見しながらも未来に前向きに踏み出すまでを描いている。前作『ショコラ』はハルストレムの素質に合っていず、本当は軽いコメディや御伽噺が得意な監督が手掛ける筈の題材だったが、今回は重めの題材を暖かい眼差しで描く本来の作品。ユニークな各登場人物のユーモラスな描写もお得意だが、定番と感じさせない地に足がついた演出を見せてくれる。


役者陣は芸達者をこれでもかと揃え、皆それぞれ面白いから目が離せない。


クオイルは最初痴呆症かと思わせるくらい無気力男だが、厳しい波風にさらされている島に放り込まれると、段々と生き生きしてくる。演ずるケヴィン・スペイシーは相変わらず上手い。不器用なダメ男を好演している。彼と親しくなる未亡人役ジュリアン・ムーアは控え目な演技。エキセントリックな芝居が得意なのを封印し、さり気無い好演だ。叔母役ジュディ・デンチは相変わらずの上手さと貫禄を見せる。クオイルの悪妻役ケイト・ブランシェットは悪どい役作りが面白く、けばけばしく安っぽいメイクに衣装、最期は目をかっと見開いてどざえもん。出番は少ないのに強烈な印象を与える。


主人公が勤務することになる新聞社のメンツも賑やか。殆ど社に居ないで魚ばかり取っている海の男である社主スコット・グレンは、頼もしさと寛容さが感じられる。社主におべっかを使っている嫌味な先輩ピート・ポスルスウェイトも、こすっからい小者振りが面白く、クオイルに助言するヴェテラン記者役ゴードン・ピンセントも味がある。意外なのは、『ノッティングヒルの恋人』(1999)、『HEART』(1999)での怪演が強烈なリス・エヴァンズ。ここではマトモな役を神妙に演じていて、そこに人間味を含ませているのが嬉しい。


崖の上に建つ先祖代々の家にまつわるくだりでは、非常に印象的な映像で見せてくれる。家はクオイルの先祖が、凍った海の上を縄で引いてここまで運んだのだ。オリヴァー・ステイプルトンの撮影は色彩を抑えて効果的で、加えて効果音も耳に残る。家が移動する場面は幻夢感が漂い、現在の場面では強風で飛ばされないように鎖で縛り付けられ、それが金属音を立てる異様。鎖が自分を押し殺して生きてきたクイル自身象徴しているの言うまでもない。また、ドラマ部分でも時折挟み込まれるシュールな映像がハルストレムとしては意外で、先の幻想的な過去の場面と相まって作品にメリハリを与えている。映像がアクセントを与えている好例だ。


荒涼とした景色にアイリッシュな味わいを持たせた音楽はクリストファー・ヤング。最初はジェリー・ゴールドスミスに依頼があったのを、スケジュールの都合でヤングに回ってきたようだ。『ヘル・レイザー』(1987)、『ザ・フライ2/二世誕生』(1989)のような、オケを派手に使ったホラー音楽で注目を浴びた初期からは想像も付かなかったが、上手さを認められて最近は大作にも恵まれている。今回も素晴らしい楽曲を提供していて、派手さはないものの、フィドル等の楽器の音色を丁寧に扱って聴き応えがある。


シッピング・ニュース
The Shipping News

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 111分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for some language, sexuality and disturbing images.
  • 劇場公開日:2002.3.23.
  • 鑑賞日:2002.3.29./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘9/ドルビーデジタル
  • 公開1週目、金曜夜のレイトショー、240席の劇場は約3〜4割の入り。
  • パンフレットは700円、スタッフ&キャスト紹介、ニューファンドランド島紹介、詳細なプロダクション・ノートに音楽解説と、アスミックはいつも丁寧なパンフレットを作っています。
  • 公式サイト:http://www.shippingnews.info/ 殆どが上記パンフレットと内容が被っていますが、加えて予告編、BBS等。