ビューティフル・マインド


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


2001年度のアカデミー賞で4部門(作品、監督、脚色、助演女優)を受賞した作品だ。


プリンストン大大学院に入学したジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニア(ラッセル・クロウ)は天才肌で変わり者の学生。人付き合いの苦手な彼は、同級生が着々とリポートを提出しているのに、数学の画期的な発見にこだわり続けて提出出来ないでいる。教授からも見放されそうになるが、苦闘の末に後に「非協力ゲーム理論」と呼ばれる理論を創造する。ここら辺の強迫観念的なクロウの演技は鬼気迫るものがある。やがて冷戦の最中で政府に才能を見出されたナッシュは、ソ連の軍事用暗号を解く任務を任され、ここから映画のトーンは変わっていく。


実話を基にしたこの作品、序盤では一種の天才ものとして始まり、やがてスリラーへと変貌していく。ここら辺までロン・ハワードの演出は実に滑らか。後に妻となるジェニファー・コネリー演ずるアリシアとナッシュのロマンスも絡め、ハリウッドを代表するウェル・メイドな演出家ハワードの面目躍如だろう。また、特撮も効果的に用いて、観客の目を飽きさせない。ナッシュの思考世界を徹底して見せようとしているのだ。これが実は作品全体の伏線になっていくのだが・・・。


やがて映画は中盤であっと驚く大仕掛けを見せ、成功の只中にいた主人公を奈落の底に突き落とす。そこから主人公とその妻となったヒロインの苦闘を描き、やがてノーベル賞受賞という大団円を迎えるプロットは単純明快。しかし脚本のアキヴァ・ゴールズマンもハワードも、口当たりが良いだけの作品にしてしまった。天才の栄光と絶望を描き切れず、全体をラヴロマンスへと単純化し、平板なものにしている。過去のハワード作品の『バックドラフト』(1991)『遥かなる大地へ』(1992)『アポロ13』(1995)と同様に、盛り上がりに欠ける出来になっているのだ。それを象徴するかのように、ジェームズ・ホーナーの音楽も滑らかなメロディを奏でるが、シャルロット・チャーチのヴォーカルともども、センチメンタルなだけで左程心に残らない。


ラッセル・クロウジェニファー・コネリーの相性は良く、やり過ぎ演技になる半歩手前で辛うじて踏みとどまっているクロウを、徹頭徹尾リアルな演技でコネリーが支えている。クロウは『インサイダー』(1999)でも実在の人物を演じていて、抑え気味の前回に比べて起伏に富んだ演技を見せるが、今回は張り切り過ぎの感がある。


この映画で最大の見所はジェニファー・コネリーの演技だ。最近の『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000)での麻薬中毒振りも陰惨で良かったが、今回は華も添えた演技が見応え十分。相当の精神的な苦労を背負いながらも、夫を支える妻を演じていて、予想を越えた素晴らしい演技を見せてくれる。特に派手な見せ場が用意されている訳でもないが、確実に心に残る。全体に作りすぎた甘ったるい映画での清涼剤と言っても過言でない。


ビューティフル・マインド
A Beautiful Mind

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 134分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense thematic material, sexual content and a scene of violence.
  • 劇場公開日:2002.3.30.
  • 鑑賞日:2002.3.30./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘9/ドルビーデジタル
  • 土曜夜の初日レイトショー、240席の劇場は約6〜7割の入り。アカデミー賞受賞作にしては寂しい出だし。
  • パンフレットは500円、原作ノンフィクションについてや、ゲーム理論の解説など。
  • 公式サイト:http://www.uipjapan.com/beautifulmind/ スタッフ&キャスト紹介、予告などの定番に加え、「関連データ」にある「天才とは何か?」などがちょっと面白い。「ゲーム」は4種類、その中にはIQテストなどもあります。「特典」の暗号解読をすると、何か良いことがありそう?