モンスターズ・インク


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

モンスターの世界の動力源は、子供の悲鳴。エリート集団モンスターズ株式会社の看板社員であるサリー(声:ジョン・グッドマン)とマイク(声:ビリー・クリスタル)のコンビは、どこでもドアを通して人間世界に出張し、子供の悲鳴収集に勤しんでいた。ところが、ブーという女の子がモンスターの世界に紛れ込んだことから、悪辣なライヴァルのランドール(声:スティーヴ・ブシェミ)の陰謀も絡み、大騒動へとなっていくのだ。


トイ・ストーリー』(1995)、『トイ・ストーリー2』(1999)、『バグズ・ライフ』(1998)等の長編CGIアニメを世に送り出してきたピクサー社。どれも非常に良く出来た傑作・秀作・佳作揃いだった。一応ディズニー作品ではあるものの、実質製作はピクサーなので、本家のていたらくを尻目の快進撃には目を見張るものがある。技術面は言うに及ばず、巧みなストーリー展開、奥行きのあるキャラクター造形、ユーモアなど、どれも一級である。しかし、気になる点もあるにはあった。そのどれもがジョン・ラセター監督作品だったのだ。つまりはラセターの力量でピクサーは持っているのではないか、という疑念があったのだ。だから今度の新作に対する一抹の不安は、そのラセターが監督ではないこと。これは宮崎作品でないジブリのアニメに対する思いと似たようなものだろうか。実際に観てみると、その不安は杞憂に終わった。


怪物連中は子供を極端に怖がっていて、触っただけでも死んでしまう、と信じ込んでいる設定がある。大方の予想通りに、サリーとマイクは父性本能に目覚めるのだが、そんなお約束も何のその、見ているだけで楽しいディテールと笑いで観客を乗せてしまうのは見事。CGIだけでなく性格描写まで念入りに描きこまれた登場人物たちは、善人悪人関わらず好きにならずにいられない。結局、こういった手触りはラセター個人のみならず、ピクサー社の持ち味でもあったのがうれしい発見だ。


終盤までは派手な仕掛けを見せる訳でもないのに、数々の騒動にホロリとさせる場面も交える手腕も健在。常連ランディ・ニューマンの都会的なジャズ・タッチの楽曲も効果的だし、エンディングのニューマン節の主題歌(祝!16度目の正直でオスカー受賞)。結構カラフルな画面と裏腹に地味目な展開なので、今までよりも小ぢんまりとした印象を受けるが、それがクライマクスになるといきなり手に汗握る大スペクタクル。壮観な光景で繰り広げられる奇想天外な大活劇に、思わず食い入るように魅入ってしまう。余韻を残して感動的でありながら、すぱっと終わらせる潔いエンディングの処理も素晴らしい。すっかりお馴染みとなったエンドクレジットの趣向にも大笑いさせられる。


その一方で先の長編3作品に比べて物足りなさを感じるのは、脚本の出来が今ひとつだから。怪物たちがブーを受け入れていく過程に説得力を欠いていて、いくら何でも甘過ぎると言わざるを得ない。また、全体にひねりが少ないのも気になる。


それでもこの映画がハイレベルな出来の作品には違いない。多少の欠点はあっても、全体に漂う手の温もりとユーモアはピクサーならではのお楽しみ。ジョン・ラセター監督でないこの作品で、いよいよもってピクサーは信頼のおけるブランドになってきた。


モンスターズ・インク』本編の前に上映される短編『For the Birds』(2001)もかなり笑わせてくれる秀作だ(2001年度のアカデミー賞受賞作)。


モンスターズ・インク
Monsters, Inc.

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 92分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):G
  • 劇場公開日:2002.3.2.
  • 鑑賞日:2002.3.2./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘9/SDDS
  • 土曜夜の初日レイトショー、240席の劇場はほぼ完売。
  • パンフレットは600円、カラフルなCGI映画に相応しくオールカラー、全体に子供向けの作りですが、ちゃんとプロダクション・ノート等の記載もあります。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/monstersinc/ キャラクター紹介、キャスト&スタッフ紹介、壁紙&スクリーンセーバー、モンスターズ株式会社見学ゲーム等。ゲームは子供向きながら中々楽しめました。予告編も字幕版と吹替え版あり。