アメリ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


ジャン=ピエール・ジュネがスタジオから飛び出して街に出た! 『アメリ』に対して僕が持った最初の印象とはこれだった。


デリカテッセン』(1991)『ロスト・チルドレン』(1995)『エイリアン4』(1997)と作り込まれた人工的なセットで、偏執狂的なまでにディテールにこだわる映像を生み出したジュネ。その息苦しさがトレードマークの1つでもあったが、今回はパリが舞台ということで、かなりロケも多い作品。それが今までに無く作品に開放感の息吹を吹き込んだ理由の1つだろう。


もちろんそれだけではなく、主人公へ向けられた温かい視線が、作品に親しみも加えたのは間違いない。


内向的なウェイトレスのアメリオドレイ・トトゥ)と、同じく内向的で純粋な心の持ち主ニノ(マチュー・カソヴィッツ)の恋を描いたこの映画、実に上質な大人のファンタシーになっている。自分の幻想的な世界に閉じ篭もりがちのアメリが、恋という現実に向かい合うことで臆病ながらも頑張って一歩前に出るまでを描いていて、メッセージ性も実に明快。それでいながら数々の笑いと、やはり健在だったジュネらしいディテールの積み重ねがマッチしていて、これが非常に面白い。アメリの仕掛ける悪戯の数々もいちいち手が込んでいるし、彼女が見る世界は御伽噺のよう、豚のランプなどの小道具類に至るまで細部に手抜かりは無く、現代のパリ下町を舞台にしながら、1つの世界が完成されている。


でも全体が単純に”可愛い”系でまとめめ上げられているかというとさにあらず、唐突に露骨な性描写や、ニノの勤務先がポルノショップだったりと、随所にしっかりと毒の盛り込みを忘れていない。これが蒸留水のように味気ないハリウッド製ファンタシーと違うところ。飽くまでも大人の御伽噺であることを主張している。


いや、”大人の御伽噺だと主張している”と言うのは少々大げさだろうか。今までこってりと毒を盛り込んでいたジュネらしいというべきか。それでも明るく作風が変化したことに変わりない。どちらかと言うとマニア受けしていた過去の作品に比べて、希望が顕著に表れているし、何よりも今までは異世界に閉じ篭もっているばかりだったのが、今回はそこから抜け出る女性が主人公なのだから。幼児風とでも呼べそうな心地よい雰囲気なのに、主人公は現実と向き合うことを選択する。単なるダメ女じゃない。その辺を説教臭く無く描いていて好感が持てる。


でもこの映画が大ヒットしているのは、皮肉なことにその人工世界の心地よさ、現実逃避出来るからではないだろうか。それくらい、この映画での手の込んだ作り込みが面白いのだ。


アメリを演じるオドレイ・トトゥはおかっぱ、お目目ぱっちり。決して美人じゃないけれど、無邪気さというか子供っぽさが出ていて、中には犯罪じゃないかと思わせる悪戯も許せてしまう。彼女に感情移入して応援する感じではなく、見ていてハラハラするのだ。これがささやかなスリルを作品に与えていて、良く出来た古風な少女探偵小説風な味付けを与えている。


マチュー・カソヴィッツは『憎しみ』(1995)『クリムゾン・リバー』(2001)の監督として知られるが、純粋に役者として出演したこの作品では、温かみと優しさを与えている。脇役のジュネ作品常連ドミニク・ピノンはアクの強さも健在で、何となく嬉しくなってしまった。


赤や緑を多用しながら、全体を柔らかなパステル調に仕上げたブリュノ・デルボネルの撮影、アコーディオンとピアノの調べも軽快で美しいヤン・ティルセンの音楽も素晴らしい。


カフェの香り立ち上る秀作ファンタシーである。


アメリ
Le Fabuleux Destin D'amelie Poulain

  • 2001年 / フランス / カラー / 121分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for sexual content
  • 劇場公開日:2001.11.17.
  • 鑑賞日:2002.2.16./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘2/ドルビーデジタル
  • ワーナーマイカルでは公開初日(渋谷のシネマライズでは2001年11月17日より公開)、土曜18時30分の回、280席の劇場は6割程度の入り。
  • パンフレットは700円。元はシネマライズなどの殆ど単館公開だったものが拡大公開された為、シネマライズのものと同じもの(表紙に”CINEMA RISE”)。写真を大きく使い、映画に合わせた赤と緑を基調としたデザインが良い。評論家達の批評が多いのは単館系によくあるもの。ジュネのインタヴューあり。
  • 公式サイト:http://www.amelie-movie.com/ スタッフ&キャスト紹介、ジュネへのインタヴュー(パンフレットと同じ)予告編、掲示板、サントラ紹介(一部試聴可)など。アメリが好きという設定ノクリーム・ブリュレのレシピなどもあります。フランス版公式サイトへのリンク有り。