ジェヴォーダンの獣


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

18世紀、フランスはジェヴォーダン地方で女子供ばかりが謎の獣に食い殺される事件が起き、犠牲者は100人以上にも上った。ルイ15世の命を受けて現地にやって来た学者フロンサック(サミュエル・ル・ビアン)と、その友人であるネイティヴ・アメリカンのマニ(マーク・ダカスコス)は、獣の正体とその背後にある陰謀に迫る。


実際には獣の正体が分からないまま終わった有名な事件を基にした、クリストフ・ガンズ監督のUMA(未確認動物)ものの怪作。


女性が何かに襲われる冒頭のシーンでいきなり『JAWS ジョーズ』(1975)へのオマージュをぶっ放し、クリストフ・ガンズ監督の演出はいわゆる”フランス映画”のイメージを覆すホラーの匂いをふんぷんとさせる。その後に続く、靄が掛かった雨中に浮かび上がる馬上の主人公2人を捉えた登場シーンも鮮やか。マーシャルアーツの達人であるマニがならずどもをばったばったとなぎ倒すシーンが続き(ダカスコスはガンズ監督の前作『クライング・フリーマン』(1995)で主人公をやってた)、観客にこの作品の基調を印象付ける。格調高いシリアスな時代劇を期待した観客はずっこけること請け合い。そう、これは堂々たるB級映画なのである。


ジム・ヘンソンズ・クリーチャー・ショップ製作の獣の正体が今一つ明確でないこともあって、UMAものとしてはちょっと喰い足りない部分もあるこの映画、それでもカタカナの”アクション・アドベンチャー”というより、昔懐かしい響きがする”大衆娯楽冒険活劇”が似合う仕上がりになっている。兎に角クリストフ・ガンズ監督は自分の好きな要素を詰め込めるだけ詰め込んだと見え、ホラー、チャンバラ、マーシャルアーツ、フロンサックと貴族令嬢(エミリエ・デュケンヌ)とのロマンス、彼女に密かに想いを寄せる兄(ヴァンサン・カッセル)、暗躍する秘密結社と、これでもかの内容てんこ盛り。フロンサックが”イタリアの宝石”モニカ・ベルッチ演ずる娼婦と関係を持つのが、ハリウッド映画と違ってフランス映画らしくて面白い。純粋に筋だけ追うならば余計なシークェンスもあるにはあるのだが、それも見せ場の1つとして機能していて、サーヴィス精神旺盛。唐突に漫画のような展開もあちこち顔を出して突っ込みどころも満載。でも、これだけやってくれれば楽しんでやろうと思うじゃぁないか。


サミュアル・ル・ビアンはブレンダン・フレイザー松野行秀を足して2で割ったような顔だが、身体の動きは悪くない。変に重々しくない身軽な演技が荒唐無稽な作品にぴったり。贔屓のヴァンサン・カッセルは白塗りで怪演、片腕を無くした狩りの名人という設定で、いかにも世をすねた貴族役。アヤしい感じが強烈で、今回も楽しませてもらえた。こちらも贔屓のモニカ・ベルッチは出番が少ないのが残念、でも終盤に画をさらう颯爽振りが格好良い。皆それぞれ決まっているのだが、一番目を引くのはマーク・ダカスコス。無口でも、やたらめったら勇ましい奮闘振りは一見の価値がある。もっともっと活躍しても良かったんじゃないか。


こんな風に大人たちは一筋縄じゃいかないので、令嬢役エミリエ・デュケンヌや、貴族の息子で主人公達に協力する若者役ジェレミー・レニエらの若さ、可憐さが引き立つというもの。登場人物達の色分けがはっきりしているので、アクション控え目の前半部分も楽しめる。


それにしてもこれといい、『ラッシュアワー』シリーズといい、西洋人の撮るマーシャルアーツ場面はやはり今一つ。やたらとスローモーションや細かいショットの繋ぎで捉え、折角のダカスコスの素晴らしい動きを伝え切れていない。一見すると迫力があるように感じられるが、もっとロングでじっくり腰を据えて映像に収めてもらいたいものだ。


クリストフ・ガンズの演出は垢抜けなく、後半にアクションが延々続くのでやや締まりに欠けるとしても、この全編ケレンに満ちた作風は捨て難いものがある。ジョン・ウー組の編集者デヴィッド・ウーの功績も大きい。時折挿入されるロング・ショットも作品にスケール感を与えていて効果的だ。湿り気のある映像も緑の匂いが伝わるようで素晴らしく、撮影監督ダン・ローストセンの手腕も光る。


ここには、かつてのサム・ライミが『死霊のはらわた』シリーズや『ダークマン』(1990)などで見せてくれたような、なりふり構わないパワーがある(そういや音楽は『死霊のはらわた』シリーズのジョゼフ・ロドゥカ)。蒸気機関車のように驀進するB級映画として、かなり楽しませてもらった。


ジェヴォーダンの獣
Le Pacte Des Loups

  • 2001年 / フランス / カラー / 139分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence and gore, and sexuality/nudity.
  • 劇場公開日:2002.2.2.
  • 鑑賞日:2002.2.2./シネフロント(渋谷)/ドルビーデジタル
  • 公開初日、土曜昼の回、245席の渋谷の劇場は6〜7割弱の入り。フランスで大ヒットでも、やはり日本では興行的には苦戦だろうか。一般には敬遠されがちなフランス映画のイメージと、逆にフランス映画好きの人がこの作品に持ついかがわしいイメージ、その2つが邪魔しているのかも。
  • パンフレットは600円、史実の”ジェヴォーダンの獣(ベート)”事件解説、来日したガンズ監督、カッセル、ベルッチらの記者会見、インタヴュー記事など。
  • 公式サイト:http://www.france-no1.com/ フランス国内No.1ヒットを受けて、この強気のドメイン名。来日したガンズ監督、ヴァンサン・カッセルモニカ・ベルッチ夫妻(共演シーンは殆ど無いけれど)の記者会見、舞台挨拶採録あり。何故か辺見えみり叶美香が同席してますが。他に予告編、スタッフ/キャスト紹介などの定番から、ジェヴォーダンの獣伝説、サミュアエル・ル・ビアンのインタヴュー対訳(動画は仏語のみ)など、サイトも内容盛りだくさん。