美女と野獣 ラージ・スクリーン・フォーマット/日本語吹替版


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


新宿高島屋にある東京アイマックスシアターが、残念ながら2002年2月1日で閉館した。開館以来、何度か足を運んでその超巨大映像を楽しませてくれたが、結局のところ高い地代に見合う大勢の観客を通わせるだけのコンテンツに不足があった、ということなのだろうか。まぁ、3ヵ月後には品川にもアイマックス・シアターが開館したので、真偽の程は分からないが。この『美女と野獣』は大盛況、2000年の『ファンタジア 2000』(2000)も大人気だったから、ディスニーブランドの威光とはいえ魅力的な映画ならばヒットするのだから。北米では興行的に確立されているというアイマックスだが、日本では認知度も含めてまだまだである。


さて、アイマックスとは一コマの幅が70mmある巨大フィルムを使い、ビル6階分相当の巨大スクリーンに映し出す巨大映像のこと。視野が殆どスクリーンで占められるので、普通の映画館とは桁違いに臨場感が違う。こればかりは実際に体験してもらわないと分からないだろう。


アイマックスの詳しい解説は置いといて、『ファンタジア 2000』で味をしめた(?)ディズニーが、名作『美女と野獣』をアイマックス用にお色直ししたのが今回の作品。オリジナル版がセル画を1枚も使わない、コンピュータ内で彩色や背景画との合成を行った作品だったので、アイマックス化が可能だったようだ。35mmフィルムを単純にブローアップしてアイマックス用にすると、粒子も拡大されてかなり目立っていた筈で、アイマックスでの鑑賞には耐えられなかっただろう。今回は保管されていたデータをアイマックス用フィルムに焼付け、高解像度の映像を生み出していた。


魔女の呪いによって醜い野獣にされた傲慢な王子様は、かの城に囚われの身となった美女との交流や、家具にされてしまった従者たちの力により、やがて優しさを手に入れるというこの作品。LDを持っているので、初公開時での鑑賞も含めて何度も観ていたが、内容を知っていても巨大画面には圧倒されてしまった。冒頭にある森の中から画面奥の城へとキャメラが移動していく場面など、場内でどよめきが起きたほどの臨場感。この場面は背景画の描き込みも細かく、かつ奥行きのある構図なので、文字通り自分が画面に吸い込まれそうな錯覚を覚えてしまう。さらに従者たちがベルをもてなす「Be Our Guest」の場面や、野獣とベルが踊る「Beauty and the Beast」の場面など、にぎやかさや絢爛豪華な感じがより一層出ていて素晴らしい。躍動感のある場面が巨大映像によって増幅され、圧倒されてしまう。


反面、描き込みの足りない背景画のショットなどは目に付く。映像が巨大になっている分、35mm版では問題の無かった部分が目立つ訳だ。全体に修正がかけられているらしいが、描き込みまでは追加しなかったようだ。サウンド面ではオリジナルのドルビーステレオをアイマックス用の6chにリミックスし、こちらもかなり効果を上げていた。


今更ではあるが、アラン・メンケン作曲&故ハワード・アシュマン作詞の素晴らしさは、文句の付けようがない。冒頭で流れる「Bell」からワクワクさせられる仕上がりだ。ベルの心情吐露から、町の人々のベル評、ベルをモノにしようとする伊達男ガストンへと繋がるこの歌は、最後は3者による歌で盛り上がり、最高の導入部として観客を誘う。これぞミュージカルの醍醐味。


舞台版で好評だった為に新たに作られた「Human Again」の場面も、ドラマ的に効果的だったと思う。オリジナル版では美女と野獣の主役2人に完全に焦点を合わせた作品だったが、2人の晩餐を盛り上げるべく奮闘する従者たちの歌を挿入することにより、人間に戻りたいと願っているのは野獣だけでないと印象付けるのだ。


最近のディズニーアニメはアンチ・ミュージカル路線だが、ミュージカル作品だって出来が良ければ、ほらこんなに楽しいじゃないか。つまるところ作品全体の出来映えなのだ。ミュージカルやしっかりとした脚本など、長年積み上げてきた実績があるのだから、時流に流されずにここは踏ん張って、老舗の意地を見せてもらいたいところ。


アイマックスということで字幕版は無く吹替え版のみの上映だったが、「Human Again」以外はオリジナル版吹替えの使用。英語版と声質が似ていて且つ演技が出来る人を起用しているので、かなり完成度は高い。それでも燭台のリュミエールに違和感を感じてしまう。日本版も健闘しているが、英語版のジェリー・オーバックに叶わない。
エンドタイトルの最後には吹替え版キャストもクレジットされている。長年の疑問だったのですが、野獣の声は山寺宏一がやっていたのだね。
歌のシーンが吹替えではぎこちなく感じられるのは致し方ない。英語用に作られたメロディに日本語を載せているのだから、少々無理があるのは当然だ。それでもメロディの美しさは残されている。


ラストが必ずしも”人は見かけではない”というテーマに沿ったものではないとか、お城と町の距離感が不明瞭だとか、あちこち瑕疵は気になる。特にテーマに関しては、『シュレック』(2001)を観た後にはディスニーの限界が目立って分が悪い。しかしそれらを差し引いてもこの作品が傑作なのは間違いない。2,000円という高い入場料を払う価値は十二分にあった。


美女と野獣 ラージ・スクリーン・フォーマット/日本語吹替版
Beauty and the Beast: Special Edition

  • アメリカ/カラー/90分/画面比 1.50:1(IMAX
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):G
  • 劇場公開日:2002.1.1.
  • 鑑賞日:2002.1.29./東京アイマックスシアター/ソニックス-DDP
  • 公開5週目の火曜午前の回、344席の劇場は8割から9割の入り。平日でこの入りなのは最終週だったからだろう。
  • パンフレットは700円、オリジナル版製作過程と今回のラージ・スクリーン・フォーマット版製作過程の両方についてのプロダクション・ノート、アイマックスの解説などあり。英語版声優たちの紹介も載ってますが、ここは日本語版声優の紹介もやってもらいたかった。オールカラーではありますが、価格面でもう少し頑張ってもらいたいところ。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/beauty/ ディスニーのサイト。作品解説、壁紙、スクリーンセーバー、予告編、上映劇場案内など。限定公開作品なのに結構盛りだくさんの内容です。下記サイトと相互リンクあり。それにしても、何故長野にアイマックス劇場が2館も集中しているのだろうか。
  • 東京アイマックスシアター公式サイト:http://www.sonymusic.co.jp/Movie/IMAX/ 上記サイトと相互リンクあり。「アラジン(1992)」アイマックス版はどこで観られるのかなぁ。