スパイ・ゲーム


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


エンド・クレジットを観ながら思いだしたのは『スパイ大作戦』。トム・クルーズの1人大作戦と化した近年の映画版ではなく、往年のテレビシリーズの方だ。アクションに頼ることなく、観客に何が起こっているかを種明かしをするラストまで引っ張る展開、その後に訪れるカタルシスなど。
これは中々に見応えのあるスリラーだ。


中国で捕らえられた工作員を、かつての師匠であるベテランのCIA作戦担当官が救い出そうとする物語。合衆国政府は国益の為に工作員を見殺しを決め込み、死刑執行まで残り24時間しかない。主な舞台はCIAの会議室。退職日を迎えたミュアー(ロバート・レッドフォード)が、捕らえたれたビショップ(ブラッド・ピット)を育て上げた過去を供述し、回想する場面が映画の7割を占めている。


トニー・スコット監督には正直なところ今まで左程感心していなかった。『クリムゾン・タイド』(1995)は楽しめたものの、他はがちゃがちゃした薄味な大作を手掛けている印象を持っていた(ついでに白状しておくと、『トップガン』(1986)『デイズ・オブ・サンダー』(1990)は観ていない)。処女作『ハンガー』(1983)は、カトリーヌ・ドヌーヴ&デイヴィッド・ボウイーの退廃吸血鬼映画で結構好きなんだけどね。


この作品でも、お得意のよく動くカメラワーク、コマのスピード操作、ストップ・モーション、細かい編集等、ありとあらゆる映像テクニックを使っている。CIA局内での駆け引きという地味な設定ながら緊張感を醸し出しているのは、計算された映像があるから。回想場面では最初は殆どモノクロなセピア調(レッドフォードの皺を隠す為かも知れないけど)で始まり、現代に近付くにつて段々と色を帯びてくる辺りも分かりやすい。撮影監督ダン・ミンデルは映画全体を寒色系に染めながら、効果的な映像を作り上げている。現在と回想が入り乱れる構成や映像の技巧がうるさく感じられるときもあるが、それでもトニー・スコットとしては意外にも不必要なけれんを抑えて据えて作っている。


この映画最大の見ものはレッドフォードとピットの2大スター競演、かと思いきや、この2人の絡みは少ない。それでもこの2人からは目が離せない。スターでしか成し得ない輝きを発散させている。回想場面で語られるのは、ヴェテランが育て上げた理想に燃える若者が、数々の作戦を通して非情でドライな師匠の実像を知ってに幻滅し、離れていく様。二枚目スターなのに恋愛ものよりも男と男のドラマが似合うピットは、レッドフォードが出ていない単独場面も多く、アクション/サスペンスの見せ場でも一手に引き受けている。それでもこの映画の主役はあくまでもレッドフォードなのだ。


出番の多さでは旬の大スターであるピットに譲るものの、年季でしか出せない味わい、知的な風格は、大ヴェテランならでは。わずかな時間とCIA局内のオフィスという限定された設定で、冷静沈着に”こと”を進めていくレッドフォード。ここに来て映画は一気に、彼こそが主役の映画だと気付かせる。冷徹であった筈なのに、いざとなるとかつての弟子を救出せんと画策する姿は、熱過ぎずに冷静で、単純に言っても滅茶苦茶カッコ良い。深く刻まれた顔の皺が、長年に渡る情報戦線をくぐりぬけて来た歴史を物語るようで素晴らしい。


また、レッドフォードが理想主義的な若者役をやった策略物の『スティング』(1973)や、スパイ映画の佳作『コンドル』(1975)を思い出すと、それらの役柄との対象も楽しめる。特に『コンドル』の主人公のその後を想像するのも一興だろう。前作『エネミー・オブ・アメリカ』で、盗聴屋ジーン・ハックマンを『カンバセーション・・・盗聴・・・』(1974)にダブらせたスコットならでは、か。


この映画で単純に楽しめない点があるとするならば、あのニューヨークでのテロを想起させる場面があるから。テロ兵士の出撃前の様子とその後の自爆テロのくだりは、嫌が上でも忌まわしい事件を思い出させる。また、中国を単純に悪役に仕立てるのもハリウッドらしい大味さだし、時折説明不足な部分も見えるのもマイナスだ。


そういった欠点はあるものの、序盤から緊張感が続く『スパイ・ゲーム』は、単純に暴力と爆発に頼らない、大人が楽しめる硬派サスペンとして面白い。謎が解け涙を流すピットとポルシェで颯爽と去るレッドフォード、このラストでの爽やかな感動とカタルシス、そしてヴェテランスターの輝きを観る為に、劇場に出掛ける価値は十分にあろうというものだ。


スパイ・ゲーム
Spy Game

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 128分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for language, some violence and brief sexuality.
  • 劇場公開日:2001.12.15.
  • 鑑賞日:2001.12.22./ワーナーマイカルシネマズみなとみらい7/ドルビーデジタル
  • 公開2週目の土曜レイトショー、149席の劇場は満席。
  • パンフレットは500円。プロダクション・ノートは見開き2ページだが、脇役キャスト、スタッフ紹介にもう少し紹介が欲しかったところ。
  • 公式サイト:http://spygame.eigafan.com/ フォトギャラリー、キャスト紹介、プロダクション・ノートなど。パンフレットどダブっている内容多し。登録制のゲームもあります。賞品としてスクリーンセーバーや壁紙などがダウンロード出来るようです。