シュレック


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

森の怪物シュレック(声:マイク・マイヤーズ)は、ひょんなことからお喋りなロバの相棒ドンキー(声:エディ・マーフィ)と共に、ドラゴンの居る城に閉じ込められているフィオナ姫(声:キャメロン・ディアス)を助けに向かうことに。


こんなプロットを聞くと、良くある御伽噺と大差ないように思える。しかしドリームワークスSKGが自信満々に送り出したこのフルCGI作品は、たくさんの捻りを加え、大人も楽しめる作品に仕上がっている。


主人公のシュレックは泥浴びが好きで、池の水浴びで放屁し、耳垢で蝋燭を作り出す、控え目に言っても相当不潔な緑色の大男。孤独を好む彼は偏屈なところもあるけれど、大らかさや頼り甲斐、行動力(+怪力)で、映画が始まるとすぐに好きにならずにいられない。マイク・マイヤーズの声の演技もアクどくなく、素直に演じている為に、シュレックが持つ素朴さが滲み出ていて素晴らしい。日本語版は観てないので分からないけれど、ちょっとこの味は浜ちゃんには出せないのではないだろうか。


フィオナ姫をクンフーも得意な活発娘に仕上げているが、実は望んで閉鎖された城に居るのも捻りが効いている。外見は現代的なのに、白馬の王子様を待ち焦がれるのはどういうことかいな、実は見かけ程ススんでる訳でも無いんじゃない?という訳。


フィオナ姫との結婚を目論むためにシュレックを旅に送り出すファークアード卿(声:ジョン・リスゴー)は、専制政治で国土を牛耳っているいけ好かない輩。でもチビで虚栄心が強く、魔法の鏡も脅しで都合の良い事しか言わせない。


ロバのドンキー(エディ・マーフィ好演)も含め、彼ら主要人物に共通するのは孤独。外面が他者に与える影響と、自らの内面のギャップを強く感じているのだ。中身でなく、外見による偏見に苛まれている彼らを観るにつけ、子供にも直接的にメッセージが届きやすい作りになっている。そのメッセージを大人が観ても説教臭くないのは、映画全体のブラックなジョークと捻りの効いた人物像・物語が面白いから。ウィリアム・スタイグの原作は未読だけれど、この脚本は良く出来ている。普通は複数のライターがいると出来は芳しくない場合が多いのに、この映画は例外の1つだ。


ブラック・ジョークの最たるものが、全編を通して徹底してからかわれるディズニー王国。ドリームワークスSKGのジェフリー・カッツェンバーグ(SKGのK)が渾身の力を込めて、かつて自分を追い出したディズニーをおちょくる様は趣味が良いとは言えないけれど、それはそれでディズニーへのアンチテーゼとして痛快でもある。またここでは言えないけど、ラストの展開が意表を付いて面白いんだ。これも『シンデレラ』(1950)『美女と野獣』(1991)『ノートルダムの鐘』(1996)なぞに対する痛烈な皮肉がね。ここいら辺はテーマにも関わってくるのだけれども、ディズニーならではの偽善性を破り、その先を真摯に描いた作品でもあるのだ。これって笑えるだけでなく、ある種感動さえ覚えるじゃないか。


細部に凝ることなく簡潔過ぎる点でやや物足りなさを感じる時もあるが、省略や誇張、映像的な躍動感はアニメイション映画ならでは。技術力の高いCGIをことさら意識することなく、単純に笑えて楽しむだけも可能な、良く出来た作品だ。ところが、IMDB(Internet Movie Data Base http://us.imdb.com/) を覗くと、『Shrek 2』(2002)のタイトルが。あのラストで続編を作るのは野暮というものなのに。水を差されるとかこのことか。


シュレック
Shrek

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 90分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG for mild language and some crude humor.
  • 劇場公開日:2001.12.15.
  • 鑑賞日:2001.12.15./新宿文化シネマ1/ドルビーデジタル
  • 公開初日の土曜日昼の回、408席の劇場は6割の入りで、お正月映画にしては少々寂しい。
  • パンフレットは500円。作品世界の説明、プロダクション・ノートなど。
  • 公式サイト:http://www.shrek.jp/ フォトギャラリー、キャスト紹介、2種類のゲームなど。プロダクション・ノートの充実は宜しい。