ムーラン・ルージュ


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


ムーラン・ルージュと言えば、パリはモンマルトルにある有名なナイトクラブもしくはキャバレー(まぁ、色々な呼び名があるだろうけど)で、画家のロートレックも入り浸っていたことでも有名な店だ。当時はボヘミアンの溜まり場であり、ダンサーである娼婦と客の出会いの場でもあったそう。今ではすっかり観光名所となり、僕が行った時には自分達も含めて日本人観光客の多さが目を引き、そういった猥雑な雰囲気が微塵もなかった。


この映画はそのムーラン・ルージュをモチーフにしているし、1899年という時代設定もされている。ジョン・レグイザモ演ずるロートレックも登場する。それでもこれは、全くの御伽噺として語られている作品だ。


物語は至ってシンプルなもの。


ナイトクラブ”ムーラン・ルージュ”を舞台に、クラブのスターであり、お金しか愛さない高級娼婦でもあるヒロイン(ニコール・キッドマン)と、彼女に恋した純朴で貧乏な若き作家(ユアン・マクレガー)、2人の間を裂こうとする卑怯な公爵。この3人を巡る三角関係を軸にしたロック・ミュージカルである。


既にカビが生えても良さそうな単純極まる物語に、念の入った事にヒロインは病に蝕まれ死期が迫っているのだから、一般受けする悲恋ものの定番要素を詰め込んでいるあざとさが目立つ。


このベタな題材に果敢に挑んだバズ・ラーマン(監督&共同脚本)は、全編力みなぎる大作に仕上げた。前作『ロミオ&ジュリエット』(1996)は斬新な前半にかなり期待させたが、後半のパワーダウンにがっかりだった。でも今回は違う。描かれるのは熱狂的で猥雑で混沌とした、『サウンド・オブ・ミュージック』と、クイーン、エルトン・ジョンビートルズニルヴァーナU2マリリン・モンロー、ポリス、T-REX等の歌が同居する世界。つまりは有名な既成ポップスのミュージカルなのである。曲は耳馴染みが良く、物語は先が読めるので、容易に作品世界に入り込みやすくなっているのだ。


ありきたりの物語に、馴染みのある曲、ヒロインにマレーネ・ディートリッヒマリリン・モンロー、マドンナ等のイコンを重ね合わせ、一般的に知れ渡っているモチーフをパッチワークにして、現代のミュージカルを作ろうとした。そういう作品なのである。


この作品が成功したのは、ユアン・マクレガーニコール・キッドマンの相性が良かったから。今やハリウッドでは珍しくなった”退廃的な絶世の美女”タイプとして、ヒロインはキッドマン以外に考えられないキャスティング。主人公のミューズとして強烈な印象を与える。一方、純朴で世慣れてない青年をマクレガーも好演している。マクレガーのハンサムだけど隣の兄ちゃん風のルックスも、親しみやすさに貢献しているように思う。


何よりも恋愛映画として、そしてミュージカルとして説得力ある作品になったのは、この2人が吹替え無しで歌っているから。キッドマンは歌唱力もあるし、美しい高音も心に響く。そして、マクレガーが突如エルトン・ジョンの『Your Song』を歌い始める場面の滑稽さ、美しさ。それまで狂騒的過ぎて映画に乗れなかった僕は、ここでぱっと作品に入れた。ヒロイン同様に観客に感動を呼び起こさせる素晴らしい場面だ。


2人の掛け合い場面で使われる曲は、『I will always love you』、『Up where we belong(『愛と青春の旅だち』)』など、普通ならば赤面しそうな選曲。これを臆面も無く、堂々とやってのける図々しさこそこの映画の信条。一方、マドンナの『Like a Virgin』の捻った使い方は、意表を突いて笑わせる強烈な名場面だ。これぞ現代のミュージカル。


ラーマンはエネルギッシュな演出で見せるが、細か過ぎるショット繋ぎがダイナミズムを殺している場面が幾つか見受けられる。例えば後半に登場するタンゴの場面などは、もっと踊りをじっくりと見たいと思わせた。劇中に幾度となく挿入される、パリの全景から人物のクロースアップになるキャメラの動きもいちいち多過ぎて、大画面では観ていて少々疲れる。また、大袈裟で毒々しくもけばけばしい、何もかもが過剰な映画なので、好き嫌いが分かれそうなのも確か。出だしからして、目まぐるしいキャメラワークにガンガン鳴るロックサウンドがけたたましく響くのだから。


それでも全編見せ場として作られたこの作品には、ひとたびその輝きに触れると魅了されずにいられない。いびつでムラがあるものの、あざとく、図々しく、けばけばしくも絢爛豪華で見所聴き所十分な力作として、バズ・ラーマンの情熱が劇場の大画面とスピーカを吹き飛ばすのだ。


ムーラン・ルージュ
Moulin Rouge!

  • 2002年 / アメリカ、オーストラリア / カラー / 128分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for sexual content.
  • 劇場公開日:2001.11.17.
  • 鑑賞日:2001.11.17./ワーナーマイカルシネマズつきみ野9/ドルビーデジタル
  • 公開2日目の日曜午後一からの回、462席の劇場は、折角のTHX劇場なのに約3割分の入り。ほんと、この劇場の経営は大丈夫なのだろうか・・・。尚、この『ムーラン・ルージュ』の冒頭には『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』予告編が付けられています。色々と期待させる要素が見え隠れし、いやいや楽しみですなぁ。
  • パンフレットは700円。プロダクション・ノートや楽曲紹介などにページを割き、ボリューム感があります。久々に納得のパンフレットでした。
  • http://www.foxjapan.com/movies/moulinrouge/ キャスト&スタッフ紹介、予告編、壁紙&スクリーンセーバー、変わったところでは監督助手の製作裏話など(動画あり)。全体にけばけばしく派手なデザインです。