ソードフィッシュ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


パルプ・フィクション』(1994)なヘアスタイルに奇妙な髭のジョン・トラヴォルタが、自信に満ちた口調でアル・パチーノ主演の銀行強盗映画の名作『狼たちの午後』(1975)について喋っているところから映画は始まる。そろそろ時間だ、とばかりに前口上を終えてコーヒーショップから出ると、そこは警官・SWATが取り囲む銀行の前。彼率いる部下は、多数の爆弾をくくり付けられた人質を盾にしていて、観客はいきなり銀行強盗の緊迫した最中に放り込まれる。


なかなかに快調な出だしの『ソードフィッシュ』は、主役のトラを強烈に印象付けることに始まり、この後の警察の強引な人質救出作戦のサスペンス、人間爆弾爆発による大惨事を『マトリックス』(1999)で用いられたバレット・タイム撮影で見せ、さて一体何でこんな事態になったのか・・・と時制は過去に戻る。結構凝った始まりで掴みもOK。かなり期待させられる。


ハッカーのスタンリー(ヒュー・ジャックマン)は謎の男ガブリエル(トラ)の依頼により、政府の隠し金95億ドルをハッキングして強奪する為に雇われる。追う捜査官(ドン・チードル)や、ガブリエルの部下ジンジャー(ハリー・ベリー)なども絡み、誰が本当に敵で見方なのか。


でもこの映画、宣伝されているようなミスディレクションや伏線など実は大した事は無く、展開される物語もハリウッド・アクション大作映画の範疇に収まっている。後半のクライマクスを冒頭に持って来る構成も単なるツカミにしか過ぎず、大して意味がある訳でもない。ハッキングして大金強奪のハイテクスリラーの筈が、あれれ重装備で銀行強盗かいなの展開も、プロデューサーであるジョーエル・シルヴァー好みの派手さを全面に押し出しただけ、と読むのが正解だろう。そんなハッタリかました作品なので、ハリー・ベリーのおっぱい登場の無意味さも、それはそれで愉快ではある。


スキップ・ウッズの脚本は詰めが甘く、全体に粗い調子なのもご愛嬌。その為にラストで明かされる謎も、爽快にダマされた気分がしない。切れが悪いと言えばそれまでだが、この映画のプロットに驚きを期待するのは止めた方が良いだろう。


とまぁ、こんな調子なのだけれど、それでもこの映画は最近の大作アクション/スリラー系の中では楽しめた方。ドミニク・セナは前作『60セカンズ』(2000)でのボンクラ振りを払拭して、上映時間99分というコンパクトな時間に派手な見せ場を詰め込み、最後まで退屈させることはない。冒頭の爆発場面(SF以外にこの映像の使い道があったなんて!)や、クライマクスのバスを使ったアクションなど、マンネリ気味だった最近の大作アクションの中ではアイディアを盛り込んでいる。新鮮味とはまた違うが、観客を楽しませようとする心意気は買おうじゃないか。


トラはさすがに大スターの貫禄を見せて、悪の格好良さを見せ付ける。その姿がきな臭いご時世と合致しているところに、この映画の不幸を感じてしまうのが。ご贔屓のドン・チードルもそれなりに味を出してはいるが、最大の見ものはヒュー・ジャックマンだ。『X-メン』(2000)でのメイク姿を取り除くと、ほら、若き日のクリント・イーストウッドを彷彿とさせるハンサムな素顔が。実は映画の中で大した活躍をしていないのに、それでも目を引くのはスター候補の証。彼が主役の映画をもっと観たいと思わせる逸材だ。


そういやハリー・ベリーも『X-メン』のメンバーでしたな。あっちではずっと影が薄かったけど。


ソードフィッシュ
Swardfish

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 99分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for violence, language and some sexuality/nudity.
  • 劇場公開日:2001.11.3.
  • 鑑賞日:2001.11.4./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘3/ドルビーデジタル
  • 公開2日目の日曜夜7時30分からの回、237席の劇場は半分の入りだった。
  • パンフレットは600円、レイアウトや色使い等のアートワークに意欲を感じます。読みやすいかどうかは別として。文章では冒頭の特撮を詳細に解説したものがマニアック。クライマクスの撮影裏側紹介もあり。
  • http://www.swordfish.jp/ キャスト&スタッフ紹介、予告編、冒頭の特撮の紹介(パンフレットと同じ文章)など。