オー・ブラザー!


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1930年代のミシシッピ。まんまと脱獄に成功したユリシーズジョージ・クルーニー)、ピート(ジョン・タトゥーロ)、デルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)は、かつてユリシーズが隠した財宝求めて旅に出る・・・。


”原作はホメロスの『オデュッセイア』”、と堂々とクレジットされるジョエル・コーエンイーサン・コーエンの兄弟作品。古代ギリシアの詩が原作、などというと聞こえが良いが、実際はオリジナル脚本を執筆中に”話が似ているならば『オデュッセイア』の映画化と名乗ろう”、としたのが真相らしい(でも今年のアカデミー賞脚色賞ノミネイト)。やはりというか、コーエン兄弟らしい捻りの効いたコメディ、それもミュージカル調のファンタスティックなコメディなのだ。


道中、3人組が偶然吹き込んだレコードが本人たちが知らぬ間に大ヒット、途中で水辺の3美女に出会って幻惑されたり、クライマクスの天変地異とやや現実離れしたユーモラスなエピソードが面白い。その一方で一つ目巨人(!)と闘ったり、KKKの集会で救出劇を繰り広げたり、とアメリカの暗部である暴力にも出くわす。この作品を御伽噺たらしめているのは、舞台であるアメリカ南部の牧歌的な風景であるのは勿論だが、暴力という現実がユーモラスではあるものの挿入されていて、地に足が付いているのも確かだ。


笑いは前作『ビッグ・リボウスキ』(1998)のような爆笑ものではなく、クスクス笑うタイプのもの。そこいら辺で物足りなく思われる向きもあるが、いい加減且つ筋の通った展開に時折挿入されるハッとさせられるヴィジュアルはコーエン兄弟の独壇場だ。原典(?)の「オディッセイア」について知っていればさらに楽しめたかもしれないのが残念。ま、コーエン兄弟もコミックでしか読んだことが無いと言ってるしね。


で、何よりもお楽しみなのはキャスティング。コーエン兄弟作品初登場のジョージ・クルーニーは、陽気な個性がこの作品にぴったり。細〜い髭にヘアスタイルに御執心、決まった銘柄のポマードでなくては落ち着かない伊達男(と思い込んでいる?)主人公が可笑しい。明るくて楽天家のクルーニーユリシーズは観客の心を捉える。


ユリシーズとちょい馬が合わなげなピート役タトゥーロはコーエン作品の常連。『ビッグ・リボウスキ』でのジーザス役が強烈に笑えた名優は、いきなり宗教に目覚めたりするおかしみもお手の物。今回もいい味出している。


初めて見たティム・ブレイク・ネルソンは、ちょい角が立っている先の2人の間に絶妙なボケを噛まして和らげ、これがまた良い感じなんだ。如何にも人の良さそうな、でもオツムも相当悪そうな感じが可笑しい。でも3人とも相当ボケボケなんだけどね。


そんな3人が紆余曲折を得て、何となくノリで団結してしまう痛快なクライマクスでの歌唱場面は、もっと歌を聴きたいと思わせる。コーエン兄弟でもミュージカルが撮れるとは意外な気もするけれど、『ビッグ・リボウスキ』のショウ場面を観てれば納得。


他にもチャールズ・ダーニングホリー・ハンタージョン・グッドマンなぞの常連も顔を出していて、面構えではどこを切ってもコーエン印だ。


全体的には『ビッグ・リボウスキ』でのミュージカル調の幻想場面が楽しかったからミュージカルをやったのかな、などと思わせるリラックスした作風で、特に目新しさはない。『ブラッド・シンプル/ザ・スリラー』(1984/2000)の恐怖や、『バートン・フィンク』(1991)の不条理さとはかけ離れているけれども、ハイスピーディだった『赤ちゃん泥棒』(1987)を相当ノンビリさせればこんな雰囲気、と強引に言えようか。ホラ話をあっけらかんと開き直って語る図々しくて確信犯的、でもディテールや引用にはとことんこだわる個性は個人的には嫌いじゃない。そんな意味では自らの手の内で遊んでいるだけで、そこがリラックスした作風なのにどことなく狭苦しさも感じさせる矛盾すら起こっている。彼ら独特の個性を滑らかな化学反応に起こさせる上手さがあるにせよ、もう一歩前に出た作品も観たいと思わせるのだ。


オー・ブラザー!
O Brother, Where Art Thou?

  • 2000年 / フランス、イギリス、アメリカ / カラー / 106分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some violence and language.
  • 劇場公開日:2001.10.20.
  • 鑑賞日:2001.11.3./シネセゾン渋谷/ドルビーデジタル
  • 公開3週目の土曜昼の回、221席の劇場は満席。この1週間前は立見と知って断念した経緯あり。
  • パンフレットは800円、元ネタである『オディッセイア』から、遺跡発掘で有名なシュリーマンについての解説まであり。尚、会談採録藤子不二雄・Aが登場しているのですが、履歴に誤記があるので、本文に貼る為の修正用シールが挟まれていました。結構致命的なミスなんですけど。
  • 公式サイト:http://www.gaga.ne.jp/o-brother/ 最初に表示される「なんと『構想3000年』」には笑わされます。スティル、スタッフ&キャスト紹介、BBS、予告編等の定番。