ワイルド・スピード


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


粗っぽい脚本や人物造形などのドラマ性を無視して、ひたすらスピードとカーアクションを楽しむ映画。職人監督ロブ・コーエンの新作『ワイルド・スピード』を端的に表現するならば、そうなる。


大型トレーラーが走行中に強奪される事件が続出。警察は犯人グループをドラッグレーサーではないかと睨み、囮捜査官(ポール・ウォーカー)を送り込む。彼はカリスマ性のあるリーダー、ドミニク(ヴィン・ディーゼル)に気に入られるが、その妹(ジョーダナ・ブリュースター)と恋仲になり・・・と、キアヌ・リーヴスパトリック・スウェイジが主演したサーファー強盗映画『ハートブルー』(1991)そっくりなプロット。『ハートブルー』にあってこちらに無いのは、体制側だった捜査官がカリスマによって新たなスリルの世界、精神的自由の世界に目覚めるという心理。但しあちらも説教臭いシナリオの割に演出の興味はもっぱらスタイルのみだったので(LD持ってるし好きな映画だけど)、最初から内容を放棄しているこちらの方が潔いとも言える。


首尾一貫性の無い行動を示す、ロクに性格も描かれていない登場人物ばかりの脚本の出来を責めるのとは別に、カリスマを演じるヴィン・ディーゼルが魅力的に映るのは、これは役者の力だ。いかつい顔にスキンヘッド、がっしりした体躯で凄みがあるのに、目元にどこか愛嬌を感じさせる個性。ドミニクは強さと弱さを内面に秘めていると感じさせるのは、意外にも演技がしっかりしているからなのだ。全体に安いギャラの売出し中のキャストの中、ディーセルが一番得をしたに違いない。


ドラッグ・レースとは、2台の車で1/4マイルの直線コースを速く走った者が勝ち、というもの。登場する車が殆ど日本車で、パンフレットによるとアメ車はクライマクスに登場する1台のみとか。車に詳しくない僕でも分かる、スープラRX-7GT-Rと御馴染みの車がごろごろ出てくるし、犯人グループは黒のシビックだ。全て相当に改造されていて、ボンネットを開けるとギンギラ光るメカ類がぎっしり、助手席下にはニトロ噴射装置の制御パネルがあったり、中にはエンジンが剥き出しのものまであって、改造車マニアの映画という匂いがぷんぷん漂ってくる。


こうなるとドライバーのテクニックとかではなくマシンの馬鹿力に比重が大きくなるのだろう。街中の一般道路でレースを行うシーンもあって、道幅が広くて真っ直ぐなアメリカならでは。言うまでも無くレース場面はさすがに演出に力が入っている。その誇張された表現がこれまたハリウッド映画的。ニトロ噴射装置のボタンを押すとキャメラがエンジン内を駆け巡り、大爆発の噴射で車が猛ダッシュ、などという漫画的な映像を特撮を駆使して描いている。最近のレース映画は『ドリヴン』(2001)といいこれといい、CGI多用した過剰な表現がリアリティを希薄にしている現象は興味深い。


ロブ・コーエンという監督は、特に個性の無い職人娯楽映画監督だ。伝記、ファンタシー、パニック・アクションと破綻なく撮っている。しかし生真面目すぎて遊びが少ないのが不満だった。今回もそういう不満はあるが、一方で素晴らしいアクション場面もある。トレーラーに襲い掛かった強盗団が、逆に武装した運転手の返り討ちにあって危機一髪、というカーアクションのシークェンスがそれだ。この場面の手に汗握る緊張感は映画最大の山場だ。


映画は映像だけではなくて、音響も主役の1人。この映画では、車の轟音やガンガン鳴っている音楽が映像と一体化している。音響の詰まらない劇場で観たら面白味が半減してしまうだろう。内容など無くとも開き直りで捲くし立てる音に、B級映画のパワーが一体化していた。


ワイルド・スピード
The Fast and The Furious