トレーニング デイ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


最近は無味乾燥、どれも変わり映えのしないハリウッド製アクション・スリラーに食傷気味だったので、久々にガツンと来る映画の登場は嬉しいものだった。


L.A.市警麻薬捜査課に配属された理想に燃える新人警官ジェイク(イーサン・ホーク)が、つわものヴェテラン警部補アロンゾ(デンゼル・ワシントン)によって使い物になるかどうか実地訓練を受けさせられる1日を描いたこの作品。ヴェテランが新米を鍛え上げるプロットはアメリカ映画では御馴染みだし、若々しいルックスに青臭い演技が定番のイーサン・ホークもタイプ・キャストだ。おまけに監督はチョウ・ユンファ2丁拳銃炸裂の『リプレイスメント・キラー』(1998)でデヴューしたアントワン・フークア。ジョン・ウー監督の模倣にしか過ぎないスローモーション多用のアクション演出も、脆弱な足腰が目立つだけの凡作だった。


このように、観る前にはおよそ期待できない条件を満たしているにも関わらず、スクリーンから一時も目が離せない作品になったのは、やはりこの人デンゼル・ワシントンの予想以上の怪演と言える。


がっしりした長身にハンサムな顔立ち、出演作品も「黒人の代表格」的演技が多かったスターだ。それが優秀とはいえ、毒をもって毒を制するとばかりに善悪の区別が曖昧な警官役とは意表を付くキャスティング。冷酷非情で凶暴、尚且つカリスマ性を持ったこの役を、毒気のある台詞回しで熱演している。ワシントンにとって久々の当たり役だ。


さらに嬉しい誤算はフークアのパワー満点の演出。随所に暴力描写でパンチを効かせ、しっかりとした足取りで全編に渡って澱みなく緊張感を持続させる。『リプレイスメント・キラー』が猫まねきパンチ級だとしたら、こちらはどしっとしたヘヴィー級。これは予期せぬ収穫だった。一部銃撃戦シーンでアロンゾが荒唐無稽な2丁拳銃なのは、アロンゾをアンチ・ヒーローとして際立たせる演出のケレンと見た。フークアはチョウ・ユンファの銃さばきを忘れられなかったのかいな、と苦笑したけどね。ここ以外は概ねリアリズムで押し通している。


デヴィッド・エアーの脚本も物語を停滞させることなく、新米警官の体験する事件の数々を壮絶な1日に凝縮させている。次々と起こる幾つかの小事件が、やがて繋がり線となっていく様もしっかりしているし、後半の意外な展開で浮き彫りにされるアロンゾ像は、ワシントン自身の迫力と相まって立体的。対照的にジェイク像は倫理観を大きく揺さぶられることが無いので食い足りなさが残る。ここは新米の人間性を一度根底から覆すくらいの何かがあっても良かったのではないか。そこから彼がどう動いていくか、そこまで描けば素晴らしい作品になっただろうに。


面白いのは警察映画なのに警察署は一度も出て来ないし、同僚の警官も殆ど出て来ないこと。舞台がもっぱら屋外でも開放感とは程遠く、息苦しいまでの臨場感がある。


劣悪な環境で悪を討つにはどうしたらいいのか。悪を退治する為に悪を犯すとき、人はどこまで悪に染まれば良いのか。重いテーマだが、久々にインパクトのある骨太のアクション・ドラマだ。ありきたりのハリウッド映画に飽き飽きしていた向きにお勧め。


トレーニング デイ
Training Day

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 122分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for brutal violence, pervasive language, drug content and brief nudity.
  • 劇場公開日:2001.10.20.
  • 鑑賞日:2001.10.20./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘6/ドルビーデジタル
  • 公開初日、土曜レイトショー。170席の劇場は9割の入りだった。
  • プログラムは500円、その割にページ数が少ないのは不満。
  • http://www.warnerbros.co.jp/trainingday/ 簡単な作品紹介、主役2人のプロファイル、予告編、北米版公式サイトへのリンクなど、最近のメジャー映画にしては簡素な作り。これもシュワ主演作がテロの為公開延期となり、急遽穴埋め的に封切られたからでしょう。