スコア


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


ロバート・デ・ニーロにはもう見飽きたって? ここ数年(十年?)、ちらほら聞こえる声で、実は僕自身も一時期そう思っていた。自身のトライベッカ・プロ運営の為か、出演作品は非常に多い。2001年の日本公開作だけでも『ザ・ダイバー』(2000)、『ミート・ザ・ペアレンツ』(2000)、『15ミニッツ』(2001)とある。しかしこの新作映画で、デ・ニーロはかつての濃い演技から離れた燻し銀の味わいを見せている。
モントリオールにてジャズ・クラブを経営するニックが、今回のデ・ニーロの役どころ。ニックは経営者だけではなく、金庫破りというもう一つの稼業を持っている。


モントリオールを舞台にした犯罪映画は珍しいし、ここはカナダのフランス語圏都市。ハリウッド映画なのにフランス語が聞こえるのは、アメリカ製犯罪映画とフランス製犯罪映画(フィルム・ノワール)の融合みたいで面白い。街並みも石畳や下町の作りがフランスっぽい雰囲気で、デ・ニーロが主演したフランスが舞台のハードボイルド・アクション『RONIN』(1998)を思い出したりした。


犯罪者としてのニックはストイックに掟を作る男。仲間を作らず、地元で仕事はしない。常に用心深く、ヤバい感じがしたら即計画を中止する。こうすることによって彼は長年生き延びてきたのだ。興味深いのは、経営者は単なる表の顔とかではなく、彼にとっては大事にしている好きな仕事だということ。そしてニックはそろそろ泥棒稼業は引退して好きなバーの仕事に専念し、スチュワーデスをしている恋人(アンジェラ・バセット)と一緒に落ち着こうとしているのだ。


還暦間近のデ・ニーロは、大袈裟にすることなく枯れた味わいを出して素晴らしい。例えば冒頭のパーティ真っ最中の豪邸で金庫破りをする場面。慣れた手つきで工具類を緻密に操り、金庫を開けてしまう手際。その際、偶然にも部屋に入り込んだ女を脅して、実際には傷も付けずにさっと引き上げる緊張感。反対に、クラブに顔を出す時のリラックスした何気ない仕草。50を過ぎてから、意外にもそれまで少なかった犯罪映画のヒーローを『ヒート』(1995)などで演じるようになり、ハードな雰囲気を出しつつ、貫禄とヴェテランの余裕を見せる様は、他の役者には中々出せないものだ。


堅気になろうとしていたニックの元に舞い込んだのが、モントリオール税関で厳重に保管されているフランスの秘宝強奪計画。付き合いの長いブローカー(マーロン・ブランド)の頼みを断れず、計画を持ち込んだ狡賢そうな若者テイラー(エドワード・ノートン)と組み、自らの掟を破って最後の大仕事に挑むことになる。


テイラーは知的障害者の振りをして税関で働いており、その卑劣な所がニックの気に食わないのは一目瞭然。ノートンは演技力では若手ナンバー1だと思うが、今回はデ・ニーロの貫禄の前では分が悪い。そこに居るだけで醸し出されている筈の緊張感が、今一つ出し切れていないのだ。デ・ニーロとの演技の火花を期待していたので、そこは当てが外れた。一方のブランドーはすっかり太った老人と化し、まるで地上にいるジンベイザメだ。しわがれ声の演技だか棒読みだか分からない芝居は、上手いんだか下手なんだか見分けが付かないけど、それ以前に存在感を見せ付けているのは間違いない。


惜しむらくはアンジェラ・バセットの使い方。良い女優なのに、単なる恋人役とは物足りない。さすがに演技で味付けしていたが、脚本上で主人公たちにもっと絡むとさらにスリリングだったのではないだろうか。


この映画の内容は犯罪映画の定番と言えるもの。プロットに意外性がある訳でもなく、特に目新しい何かがある訳でもない。それでもここにはフィルム・ノワール独特の味わいがある。ジャズや落ち着いたニックの部屋のインテリア等のディテール、彩度を落とした撮影、デ・ニーロの演技。派手なアクションを避けたゆったりした出だしなのに、じわじわとスリリングになる。単純だけど爽快なクライマクスの金庫破り場面も、「そういう手があったか!」とカタルシスがある。映画全体はシリアスなのに息苦しくない。どうしてこれで結構懐が深いのだ。


この佳作の監督は意外にもフランク・オズ。慌てず騒がずの筋運びに、計画の下準備や当日の決行場面の手に汗握るサスペンス演出等、中々堂にいったもの。大人の映画も撮れるとは、嬉しい誤算というか収穫と言うべきか。いつもの監督作品のように笑いが無くても、ストーリーテラーとしての役割を果たした仕事振りは大いに評価出来るものだ。


映画を支えるハワード・ショアのジャズ音楽は格好良いし、出演して喉を披露したカサンドラ・ウィルソン、エンドクレジットを飾る売れっ子ダイアナ・クラールの主題歌も大いに宜しい。


映画史に残る作品でもないし、それぞれのスタッフ・キャストの代表作になることもないだろう。しかし『スコア』は、久々に楽しめる大人向けスリラーとして、記憶に留めて良い仕上がりなのである。


スコア
The Score

  • 2001年 / ドイツ、アメリカ / カラー / 123分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for language.
  • 劇場公開日:2002.4.20.
  • 鑑賞日:2002.4.21./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘8/ドルビーデジタル
  • 公開2日目の日曜日のレイトショウ。翌日は振替休日の為か、238席の劇場は満席。
  • プログラムは500円、その割にページ数が少なく感じます。プロダクション・ノート、スタッフ&キャスト紹介など定番の作り。
  • 公式サイト:http://www.high-score.jp/ スタッフ&キャスト紹介やプロダクション・ノート等の内容は通常の公式サイトと変わらないが、驚くのはプログラムに無い批評が2編掲載されているところ(3つめはプログラム掲載済)。筆者も川本三郎(評論家)、高井信成(ジャズ・ライター)とまともな人選です。