ブリジット・ジョーンズの日記


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

32歳のシングルトン、ブリジット・ジョーンズ(レネー・ゼルウィガー)の新年の決心は、禁酒・禁煙・減量、そしてマトモな彼氏を見つけること。新年早々、離婚歴ありの堅物弁護士ダーシー(コリン・ファース)に近付こうとするが、開けっぴろげな性格が災いして思いっきり引かれてしまう。でも落ち込んでも立ち直りが早いのが彼女の長所。セクハラ気味のスカした二枚目上司(ヒュー・グラント)の視線も気になり、やがて彼と付き合い出すがはてさて一体どうなることやら。


日本でも人気のヘレン・フィールディング原作のベストセラーの映画化。脚本は原作者自身と、『フォー・ウェディング』(1994)『ノッティング・ヒルの恋人』(1999)のリチャード・カーティス、『テイラー・オブ・パナマ』(2001)のアンドリュー・デイヴィスが担当している。


30代独身女性が主役の恋愛コメディ、などというのは特に珍しいものでもない。主人公の独白で語られる手法もしかり。彼女が失敗ばかり起こして成長も今一つ見られない、なんてぇドラマも、TVのチャンネルを回せば簡単に見られる。それでもこの映画はTVやビデオでなく、劇場で観る価値がある。


ブリジット=レネーを見る楽しさは中々他では得がたい、大いなる楽しみなのだ。


ブリジットがデート前に勝負下着で悩む場面等、爆笑ものでありながら生々しさ(?)も交え、気の置ける友人達との交友もさり気なく織り込み、映画は生活感を出すことに成功している。これがミソで、実は後半に予想外の現実離れした展開も見せるのだが、それでもヒロインの心情がリアルに描かれている為に、こちらの気持ちが画面から離れない。


ほっそりスレンダーのイメージをかなぐり捨てて顔の輪郭が変わるほど体重を増やし、でっかいお尻を文字通りカメラに見せ付け(=レンズにぶつけ)、挙句の果てに雪中を下着姿で街中走り回る様は、みっともなさを通り越して爽快ですらある。彼女に比べたら、アリー・マクビールの自己中心的失敗談の数々なぞ単なる良い子振りっ子にしか見えない。しかもレネーには笑いだけでなく存在感がある。英国訛りで友人達とあけすけに喋る場面もそれなりに様になっているし、どうして等身大の説得力もあるではないか。


ブリジットは中々の毒舌家だけれども、何気に冷静な自己観察もしている。また、妙な正義感ぶらずに他者と自分の欠点も何気に受け入れる包容力もある。これをスクリーンに体現出来たのは、レネーの持つ自然体という強力な武器にある。別の女優、例えばジュリア・ロバーツが同じことをしていたら単なる嫌味女に過ぎなかっただろうし、メグ・ライアンがやっていたらリアルにならず「私、自分の魅力を知ってます」となったのでは。ダメ女の自虐的独り言映画が、単なる独り善がりでなく、観客の感情もスクリーンから離さなかったのはレネーの存在なのだ。


対する男性陣はヒュー・グラントコリン・ファース。普段はチャームポイントのアピールに忙しいとばかりに瞬きしまくるグラントは、こちらの瞬き数カウントを忘れさせてしまうくらい、スケベ男を嬉々として演じていて、最低さが最高。ダメ女とダメ男の華やかなる競演だ。一方、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)『恋におちたシェイクスピア』(1996)のアカデミー賞2作品で、太り気味の寝取られ夫役を演じていたファースはすっかり痩せて変身。TVドラマ『高慢と偏見』(1995)の貴族イメージを引きずっての登場。後半では意外な素顔を見せるダーシー役を控え目に演じて、後半の要所を押えている。


これが長編初監督のシャロンマグワイアの演出は、ドタバタ振りを騒々しく思うか、バカバカしさを楽しめるかで、かなり好き嫌いがはっきりしそう。僕自身は楽しめたけど、もう少し話し運びにテンポがあった方が良かった。


肝心の話も他愛ないと言えば全くその通り。仕事と恋愛願望とは、意外と古風でさえある。ダメ女の救い主は白馬の王子様だった、なんてマジメにやっていたら、観ているこちらが赤面しそうなのに、堂々とやってのけるのがコメディの強みでもある。



ブリジット・ジョーンズの日記
Bridget Jones's Diary