ドリヴン


★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

壁にぶつかっている若き天才ドライバーのジミー(キップ・パルデュー)。スランプから脱出させるべく、チームオーナー(バート・レイノルズ)はかつて事故で挫折して引退同然のジョー(シルヴェスター・スタローンお得意の役どころ)をジミーの指南役として呼び寄せる。


シルヴェスター・スタローン脚本・出演、レニー・ハーリン監督のカーレース・アクション超大作。スライ&ハーリンのコンビと言えば、雪山の中でTシャツ1枚着て悪党相手に奮闘していた山岳アクション映画『クリフハンガー』(1993)以来。今回はCARTレースを背景に、師弟関係、兄弟関係、友人関係、三角関係、ライヴァル関係等のドラマが盛りだくさん。面白いのは、スタローンの脚本は彼らしいドロ臭い人間ドラマを背景にレースを描いているのに対し、ハーリンの演出はそれと正反対の方向を向いていること。つまりは人間ドラマは飽くまでも書割の背景同様の扱い、これでもかのレース・アクション場面主体の派手派手映画に仕立てているのだ。


レース場面は飽くまでもスピードを誇張した特撮を駆使し、キャメラは常に動き続け、ショットは全て神経症的に短く編集され、今風のロックが全編に渡って鳴り止むことを知らない。その全てが過剰で無意味だ。


これは凄い。どんな脚本・題材でも、無味乾燥な自分のスタイルに変えてしまうのだから、ハーリンて相当のつわものなのだ。スライは自分の脚本をこんなにされてどう思っているのだろうか。まぁ、こちらとしてもハーリンに人間ドラマなぞを求める訳ではないのだから、それは良いとして。


彼の前作は、高度な知能を持った人食いザメが、浸水した海底基地内で人間に襲い掛かって来る『ディープ・ブルー』(1999)。映画の知能指数はサメに劣っていても、余計なドラマを排して、ひたすらこけおどしとショックの連打でそれなりに楽しませてくれた怪作だった。若い観客にひたすら媚びている悲哀はあるものの、今度も知能と中身を捨てて(最初から脳みそなぞ持って居ないなんて突っ込みはともかく)スタイルに先走ろうとする強い意志すら感じてしまう。


その決意は配役や演技指導にも現れていそう。スライの元妻(しかも悪妻)役ジーナ・ガーションは才能を無駄遣いのタイプ・キャスト。エステラ・ウォーレンは冒頭で涙流して頑張ってたが、2人の男の間で揺れるている筈の内面演技はまるで駄目。でも水が気持ち良さそうなのは分かる、意味不明なシンクロナイズド・スイミングの見せ場はある。キップの演技は『タイタンズを忘れない』(2000)のちょい役程度でないと通用しないものなのだなぁ。天才の挫折感がまるで伝わない。でも良いのだ、カーアクションの背景にしか過ぎないんだから。


そんな中で予想外の脇役が妙に合っているスライが味を出している。単なる若手の引き立て役と見せておいて、最後にちゃっかり美味しいところを持って行ってしまうのはご愛嬌と言うべきか。へぇ、主役でないスライって意外と良いじゃないか。アニメだけど『アンツ』(1998)でも脇役声優が似合っていたし、今後はこの路線も行けそう。


作品自体はドラマものとしては誉めた出来ではない。でも勿体ぶらず軽いのが幸いして、2時間程度脳死状態でヒマを潰すつもりならば打って付けの、意外にも楽しめるB級娯楽映画になっている。ハーリンの未来もこの路線で決まりなのだろう。


ドリヴン
Driven

  • 2001年/アメリカ、カナダ、オーストラリア/カラー/116分/画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for language and some intense crash sequences.
  • 劇場公開日:2001.8.18.
  • 鑑賞日:2001.8.24./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘5/ドルビーデジタル
  • 公開1週目、金曜夜9時50分からのレイトショー、164席の劇場は半分の入り。
  • プログラムは600円。オールカラー、キャスト・プロフィール、CART解説など。
  • http://www.driven-jp.com/ レニー・ハーリン動画メッセージ、予告編・壁紙、サウンドトラック試聴コーナー、プレゼント当選のクイズコーナーなどあり。