PLANET OF THE APES 猿の惑星



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


1968年は『2001年宇宙の旅』が公開された年としてSFファンに記憶されている。その年に公開されたもう1本の名作が『猿の惑星』。当時は大ヒットでも今や『2001年』より格落ちの扱い、でもSFサスペンス・アクションとして今も楽しめる出来だと思う。その正体は、人間を圧制する猿の姿に人種差別問題を盛り込んだ、ちょい知的な左翼気味のエンタテインメント。主役のチャールトン・ヘストンは現全米ライフル協会会長の地位を示す通り右翼という皮肉はさておき、当時としては優れたメイクアップと、フランクリン・J・シャフナーの演出の締まった演出、世界に荒涼感を与えたジェリー・ゴールドスミスの無調音楽、そして何と言ってもTVシリーズミステリーゾーン』のロッド・サーリングによる捻った脚本(原作はピエール・ブールが自らの日本軍捕虜に対する恨み辛みが込められていたようだが)が調和して、独創性溢れる映画になっていた。


オリジナル版の音楽に敬意を表したのか、打楽器打ち鳴らすダニー・エルフマンの音楽に乗り、ティム・バートン版『PLANET OF THE APES 猿の惑星』は幕を開ける。こちらは名作とは別の世界を構築する自称”リ・イマジネーション”版。宇宙飛行士が不時着した惑星は、知能が発達した猿が人類を支配する世界だった、という設定だけ借りた別の映画なのは看板に偽り無し。特に目立つ違いは人間側も言葉を発すること。オリジナル版では人間が喋らない為に、人間には知能が無いと差別する猿達の根拠になっていたが、今回はどうして猿が人間を知能の劣った存在とするのか、その点が弱い。最も人種偏見など根拠が無いといえばそれまでだが。


弱いと言えば主役のマーク・ウォールバーグはヘストン程の重量級スターではない。飽くまでも等身大のヒーロー扱いだ。いや、ヒーローですらない。何せバートンは明らかに宇宙飛行士に興味を示していない。彼と行動を共にする金髪グラマー美女エステラ・ウォーレン(オリジナルでのリンダ・ハリソンに近い役どころか)にもさして感心を払っていないのだ。


プロットは猿の圧制に立ち上がる人間との戦い、ありふれたローマ帝国対奴隷の映画の同工異曲に目新しさはない。主役は弱いし話は面白味に乏しい大味振りで、さて何が見所か。


今回の目玉はズバリ猿達。エイプ・クレイジーの異名を持つ、今やすっかり偉大なメイクアップ・アーティストとなったリック・ベイカー渾身の個性的な猿顔に、凝った猿達の衣装や鎧。バートン作品御馴染みのモノトーンに渦巻き模様の猿世界が、暗い森を背景に繰り広げられている。だから一方の原始人ルックの人間たちは詰まらない。エステラ・ウォーレンも『恐竜100万年』(1966)のラクウェル・ウェルチよろしく、少ない布を身体に巻きつけて奮闘しているのが唯一の救い。これは伝説的モデル・アニメーターであるレイ・ハリーハウゼンが手掛けたその作品へのオマージュとも取るのは考え過ぎか?。


役者達の演技の力の入りようでも猿側が勝っている。ヘレナ・ボナム・カーターポール・ジアマッティ、ケリー・ヒロユキ・タガワらの熱演の前では、薄っぺらな描かれ方をしている人間の影は薄い。白眉は悪役チンパンジーのセイド将軍。メイク、衣装、演技が調和した傑作キャラクターだ。ティム・ロスは『レザボア・ドッグス』(1992)での瀕死のミスター・オレンジの声で全編通し、残忍且つ狡猾な魅力的な悪役になり切っている。余りに無関心な人間達に対し、念入りに描かれている猿達を見るにつけ、ひねくれたバートンらしさが感じられるのだ。


撮影当初のパートナー、リサ・マリーの猿役での起用といい(『マーズ・アタック!』(1996)で火星人役起用の前科あり)、バートン映画らしからぬ健全な(?)主人公を思いっきりイジワルして突き落とすラストといい、映画はバートンのテイストそのもの。


巷では”バートンらしさが無くなった”と言われているが、果たしてそうなのだろうか。そのバートンらしさというのは、恐らく過去の個性丸出し怪作群なのだろう。確かにこれらのやりたい放題傑作群と違い、前作『スリーピー・ホロウ』(1999)から大作風になり、かつてはぎこちなかったアクション演出でさえもこなれてきた。それでも大衆に受ける大作の枠組み内で、いかに自分の持ち味を出せるか奮闘しているではないか。それが前述したような猿への偏愛、凝った美術等に個性として現れ、楽しめるのだ。


脚本に締まりが無いのは最近のハリウッド大作では珍しくもないが、この映画には独特の味がある。まとまりやピリリとした辛味ではオリジナル版に負けるものの、こちらは別の強烈な個性を手に入れている。何ともへんちくりんなこの味は、捨て難いものがあるのだ。


PLANET OF THE APES 猿の惑星
Planet of the Apes

  • 2001年 / アメリカ / カラー / 119分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for some sequences of action/violence.
  • 劇場公開日:2001.8.4.
  • 鑑賞日:2001.8.4./ワーナーマイカルシネマズみなとみらい7/ドルビーデジタル
  • 公開初日夕方6時25分からの回、149席の劇場は満席だった。
  • プログラムは600円。オールカラーで文章も豊富、但し最後の3ページは広告。
  • 公式サイト:http://www.planetoftheapes.com/ このトップページの「日本語」から日本語サイトに入れます。コンセプト・アート、予告編、壁紙などがダウンロードできます。