レクイエム・フォー・ドリーム



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

サラ(エレン・バースティン)は1人暮らしの老女だ。サラの息子ハリー(ジャレッド・レト)とその恋人マリオン(ジェニファー・コネリー)の若い美男美女と、ハリーの親友タイロン(マーロン・ウェイアンズ)は、閉塞した現実から何とか逃れたいと思っている。4人の転落は、TVショウ出演が決まったサラのダイエット開始と、ハリー&タイロンが麻薬密売に手を出したことから始まる。


とこう書くと、ありきたりな麻薬中毒ものと思われるかも。しかし『π』(1998/見逃してるんだよなぁ)のダーレン・アロノフスキー監督の新作で、ヒューバート・セルビー・ジュニアの小説『夢へのレクイエム』を原作にした映画は(脚本はアロノフスキーとセルビー・ジュニアの共同)、中毒が麻薬だけではなく、様々な嗜好や日常の行動にもあると、パワー満点の描写で示している。


テーマは孤独と中毒そのものだ。


医者からもらったダイエット・ドラッグに麻薬成分が入っていると知らず、いつの間にか中毒と強迫観念と妄想に捕らわれるサラ。ミイラ取りがミイラになるが如く、麻薬中毒に陥る若者3人。しかし彼らは、現在/未来への不安をどことなく感じながら生きている、ごく普通の人々だ。


サラ役エレン・バースティンは序盤と後半の演技の幅が広く、特に後半の力演は鬼気迫る。彼女がこの映画の大スターだ。ジャレッド・レトの青白く痩せこけた顔付き、終盤のジェニファー・コネリーの虚ろな表情も迫力があるが、バースティンの前では分が悪い。


この映画では、TVショウに浸るのも、甘いものへの嗜好も、麻薬を打つのも、全て同じ手法、レベルで描かれている。その表現方法が意味する所は平易で、この映画を難解さから救い、とっつきやすいものにしている。


アロノフスキーはあらゆる映像テクニックを駆使して、序盤から映画を引っ張る。スプリット・スクリーン、シェイキー・カム、早回し、残像の残るスローモーション・・・。登場人物たちの崩壊が始まると、神経症なまでに張り詰めた映像の断片と、極端に短いショットの細切れが繋ぎ合わされ、誇張された効果音が映像共に観客に向かって襲い掛かる。そのジェットコースター並のスピード感には圧倒される。頻繁に繰り返される短いショットの繋ぎで、中毒行動を表現する方法も分かり易い。幸運なことに、最近のオリヴァー・ストーン映画のように全編目まぐるしいだけの編集をして観客を疲労させ、注意を逸らさせることはない。


時に陳腐な表現に終わっている個所もあるものの、あらん限りの映像テクニックを駆使して辛辣にも中毒症状として描かれるのは、我々の日常生活での行為に他ならない。つまりはEメールチェックも、携帯電話も、TVゲームも、インターネットも、ある意味では麻薬に依存するのと同じであり、不安と孤独の隙間から忍び寄る中毒だ、とこの映画は喝破する。


また、スプリット・スクリーンが人間関係を表現しているのも目を引く。例えば会話場面では、同じ場面・同じ空間にいるのに画面を2分割して、登場人物の関係の危うさ・脆さを表現している。ハリーとマリオンのベッドシーンで、互いに顔を見ながら会話しているにも関わらず、実は画面が分割されていると途中で分かる構図。はっとさせられる優れた映像だ。


4人がそれぞれ地獄に落ちて行く様を執拗に描くクライマクスは、技巧の嵐極まれり。その後に待ち構えているのは、地獄の底を突き抜けた先にもまだある、底なし地獄。もし自分だったら、と思うとぞっとする。


しかし超絶技巧は諸刃の刃。テクニックが効き過ぎて現実感から遊離してしまった感もある。相当暗い話なのに後味の悪さや重苦しさが無いのは、ジャレッド・レトジェニファー・コネリーが現実感の無い美男美女だから、というだけではないだろう。一般的に短いショットの積み重ねは、サスペンスを盛り上げたり、カタルシスを演出する為に用いられることがある。崩壊の爽快感、地獄の先の楽しみ、でないだろうが、映像ドラッグのような快感も持つ映画でもあるのだ。


クリント・マンセルの音楽も同様の効果をもたらしている。デジタルビートやシンセサイザーサウンドに、クロノス・クァルテットの清涼感のある弦楽四重奏を重ねている。ミニマルな旋律が人間性の喪失を嘆き、その繰り返しがカタルシスを与えている。まさに「麻薬的」音楽だ。


映像と音楽の絶大なパワーで、映画は分かりやすさとカタルシスを手に入れた。優れたスタイルで寓話を組み上げ、リアリズムよりもシュルリアリズムを目指したこの映画は、一方で自らの持つ鋭さを失った。それでもポスターにある瞳の大写しの様に、注目せずにいられない作品だ。


レクイエム・フォー・ドリーム
Requiem for a Dream

  • 2000年/アメリカ/カラー/100分/画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):R-15
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sci-fi terror and violence.
  • 劇場公開日:2001.7.7.
  • 鑑賞日:2001.7.28./シネセゾン渋谷/ドルビーデジタルでの上映。
  • 公開3週目土曜日、朝10時20分からの回、221席の劇場は2〜3割の入り。
  • プログラムは800円。アロノフスキー、セルビー・ジュニア、主要キャストらのインタビュー記事、批評など。麻薬中毒描写に関して、原作とウィリアム・バロウズの「裸のランチ」を同程度に評価している文もありました。原作を本屋で眺めた限りでは、バロウズよりかは読みやすそう?(でもない?)
  • 公式サイト
    • 日本版:http://www.requiem-jp.com/ 壁紙・予告編のダウンロード、スタッフ・キャストらのインタビューなど。
    • 北米版:http://www.requiemforadream.com/ 全体にサイトを覗く者にいらだちや不安を与えようとする、ちょっと凝り過ぎの感の無きにしもあらずのサイト。ついぞ映画情報には行き着けませんでした(^^;)。ひょっとしたら、画像と音のみ?
  • ファンサイト:北米でのUnofficial Screenshot Site http://www.geocities.com/rfad2001/ 画像中心のサイト。各登場人物ごとにページが分かれています。かなりネタバレ気味ですが。画像はDVDからのキャプチャーのようです(北米では発売済)。