デンジャラス・ビューティー



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


身なりなぞ全く厭わない女刑事(サンドラ・ブロック)が、対テロ捜査の為に嫌々ながらも出場者としてミスコン大会に出場する羽目になる。真犯人の正体は3万キロも彼方から予想が付くし、主人公の魅力に気付いていなかった同僚刑事(ベンジャミン・ブラッド)が、彼女に惹かれていくのも予想通り。美しくなっていく『マイフェア・レディ』(1964)的展開もお約束。でもこれはこれで良いのだ。


この映画でのサンドラ・ブロックはプロデューサーも兼ねていて、さすがに自分を魅力的にアピールする方法をきちんと知っている。正義感も腕っ節も強く、見かけはガサツでも(サンドラのフガフガするブタ鼻笑いはケッサク)、それに他人への思いやりがある。「ミス好感度」(原題)そのままで、素直に共感出来るキャラクターなのである。演技力が格段向上してコメディエンヌ振りに磨きがかかった訳でも無いのだから、これはやはり道具立てと脇役陣の配置も上手いのだろう。


特に演技力がある訳でもないブロックを引き立てるその脇役陣が、ミスコン理事長役キャンディス・バーゲン、ゲイの美容コンサルタントマイケル・ケイン、それにミスコン司会者役のウィリアム・シャトナーといった、カンロクがある面々。内容からしても軽い映画に、こういったキャスティングが効いている。


バーゲンは『風とライオン』(1975)等の70年代を代表する知性派美人女優というよりも、今ではNHKで放送されていたコメディ『マーフィ・ブラウン』と言った方が通りが良いのかな。元優勝者のプライドに凝り固まった役を可笑しく演じている。ケインはさすが芸達者。貫禄に優雅な軽さと悲哀を吹き込んでて、登場場面を1人でさらっている。名人芸とはこのことだ。シャトナーは演技的云々より、その存在自体が鍵だろう。元カーク船長の悲哀が役柄に重なっているのが効果的。残酷なようだが、これぞプロのキャスティングの仕事なのだ。


ドナルド・ペトリの演出は特にどうということも無いけれど、全体に大袈裟になっていない点が評価出来る。無味無臭の監督は、要所での笑いだけでなく、大爆笑もののクライマクスも楽しい映画に仕上げた職人として、貢献度は意外にもあるのだ。


ミスコンなんて美人だけど頭空っぽばかりな連中の集まり、と最初は主人公が思い込んでいたのに、やがてその偏見を捨てていくのも自然な展開。「人は見かけで判断してはいけませんよ」とは、外見が醜い人にはよく例えられるのに、美男美女にもそうだという、当り前でも意外と見過ごされている教訓も織り込み、脚本にもそれなりの配慮を持たせている。


結局の所、この映画のポイントは”それなり”なのだろう。批判でもケチでもなく、ここでは良い意味で使いたい言葉だ。観客の想像力から逸脱すること無く、驚きも無いけれど損した気にもさせない、小振りで心地良く楽しめるコメディ。口に出すのもはばかれるようなハズかしい邦題でも、幸運なことに中身は愚かしくない。 たまには劇場でこういう作品も良いではないか。


デンジャラス・ビューティー
Miss Congeniality

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 110分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for sexual references and a scene of violence.
  • 劇場公開日:2001.6.16.
  • 鑑賞日:2001.6.16./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘6/ドルビーデジタル
  • 公開初日、土曜日昼の回。170席の劇場は7割の入りでした。こういう”ちょっと面白い”コメディは、日本では当たらないと言われているので、少々嬉しい感じ。
  • プログラムは600円。アメリカのミスコン事情、ミス・ユニバース日本大会司会者だった宝田明の談話、主要キャストの意外にもちゃんとしたインタビュー記事など。ミスコンに相応しく、オールカラーで紙質も良い。
  • 公式サイト:http://www.warnerbros.co.jp/archives/dangerous_beauty/ 粗筋紹介、キャスト・スタッフ紹介、など。割と簡素なサイトです。