みんなのいえ



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


更地に一軒家が建つまでの素敵なプロダクション・スケッチを背景に、タイトルと音楽がかぶさる優雅なオープニング。僕は名作『スティング』(1973)を思い出した。期待させる出だしは上々だ。


三谷幸喜の映画監督デビュー作『ラヂオの時間』(1997)はマスコミ等では話題になったものの、どうやら興行的には大成功ではなかったようだ。有楽町マリオン日劇東宝は公開後間もない日曜夕方だというのに、大入りとは程遠いものだった。演出は映画的広がりに欠けるものの、大爆笑場面も多い十分楽しめる佳作だったのに。名匠ビリー・ワイルダーのファンと公言する三谷には、もっと映画を撮ってもらいたいと思ったものだった。


待ちに待った4年振りの新作はハウ・トゥものの楽しみもある一品。新築一軒家を建てようとする若夫婦が、友人であるアメリカ帰りの若手インテリアデザイナーと、妻の父親である昔気質の棟梁の確執に振り回されるというもの。若夫婦に田中直樹八木亜希子、デザイナーに唐沢寿明、棟梁に田中邦衛が配されている。


若夫婦役の2人の演技はお世辞にも上手くはない。特に田中直樹の受けを狙ったオーヴァーアクトには時にうんざりさせられる。これは演出の責任もあろう。概して三谷は舞台的で大袈裟な演技を好むようだ。八木亜希子は可愛らしいものの、突出した才能の片鱗を感じさせることはない。それでもこの2人の持つ雰囲気が、作品の醸し出す親しみ易さに十分貢献している。


芸術家と職人としての自己に苦悩する、一見生意気で頑固なデザイナーを、唐沢は三谷作品で御馴染みのやや騒々しい演技で魅力的に見せる。やがて彼が日本の古いものへの憧れや、見かけだけではなく、物事の本質を見極めようとしていることが分かってきて、見所のある役だ。


唐沢とことごとく衝突する田中邦衛はこの映画のスターだ。頑固一徹とはこのこと。”家は頑丈な方が良い”をモットーに、でも和室へのこだわりから娘夫婦やデザイナーに内緒で、勝手に部屋割りを変えたり。このこだわりが様々な笑いをもたらす。役柄に年輪や味を感じさせるのはヴェテランならでは。大袈裟になる一歩手前の匙加減が、映画にバランスをもたらしている。芸術家であることと職人であることの対立・両立が、この映画で一番力が入っている描写。この2人が三谷の葛藤をも表現している登場人物達だと、容易に想像がつこうというものだ。


演出は前作に比べて映画的になってきている。時々余計なキャメラの動きがあるのは御愛嬌だが、画面の構図も空間の広がりを意識するようになったようだ。一番素晴らしいのは、長回しが効果を上げている上棟式のシーン。クレーン撮影が場面に活気をもたらしている。効果音も大胆にサラウンド側に音を回したり、映像面・音響面で映画的であろうとしている。


全体にギャグで爆笑できる場面は無く、おっとりしたユーモア路線。役者が騒々しくとも、キャメラがせわしなくとも、映画のテンポは余裕のあるもの。前作やTVシリーズ王様のレストラン』の狂奏的大爆笑を求めると肩透かしを食らうし、時に狙いが外れて空回りするギャグも散見される。妙に豪華なゲスト出演が全編に渡っているので、観客の物語への集中力を阻害しているのも惜しい。顔見せはヒチコック作を見れば分かる通り、序盤だけで結構なのに。また、家が徐々に出来上がっていく高揚感にやや欠ける。1つ1つのエピソードは面白くとも、全体としてのまとまり、盛り上がりが足りない。特に本来ならばクライマクスとなる筈の、家が完成する瞬間があっさり飛ばされて、フィナーレの披露パーティになっているのはちょっと残念だ。完成の瞬間があるだけで物語が集約され、それまでのばらつきをすっきりまとめ上げた筈だ。


このような欠点は色々あるものの、映画自体の風味は好感の持てるものだ。随所に見られる細かいこだわりが、作り手の登場人物への愛、映画への愛を感じさせるのだ。そのこだわりとは、登場人物のさりげなくも妙に細かい描写であり、タイトルバックであり、場面の繋ぎに登場する名言・迷言であったりする。


三谷には1年に1本は監督をしてもらいたいが、次は何年後になることやら。面白い映画を数多く作ってもらえそうな期待は過度だろうか。


みんなのいえ
Everybody's House

  • 2001年 / 日本 / カラー / 116分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):(未公開)
  • 劇場公開日:2001.6.9.
  • 鑑賞日:2001.6.9./ワーナーマイカルシネマズつきみ野6/ドルビーデジタル
  • 公開2日目、日曜日昼の回。199席の劇場は5〜6割の入り。つきみ野ワーナーは3回目だが、場内はいつも空いている。営業的に大丈夫なのだろうか。
  • プログラムは600円。登場人物紹介で、細かい裏設定まであるのが可笑しい。巻末に「組み立て飯島家」という、切り貼りして組み立てるおうちあり。
  • 公式サイト:http://www.minnanoie.net/ キャスト・スタッフ紹介、プロダクション・スケッチ、撮影現場日記、掲示板など。