シャフト
★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。
マンハッタンをばっこする悪党どもに活を入れる私立探偵ジョン・シャフト・・・と聞いて『黒いジャガー』（1971）を思い出す方がいたとしたら、相当な映画好きだろう。かく言う僕もTVの深夜放送で見たことがある。目には目を、歯には歯を、とばかりに腕っ節に自信があり、女とくれば肌の色に関係無く抱く姿、シャフト役リチャード・ラウンドトゥリーのアフロヘアと皮のロングコートのファッションが、いかにも70年代の映画だった。しかもシャフトは黒人探偵、イキなファッションに白人女性とも積極的に関係を持つ姿勢は、当時としてはかなり革命的だったようだ。黒人のためのお色気と暴力が売りの娯楽映画、ブラックス・プロイテイションものの先駆けの1本ででもある。大人気で続編も2作作られたが、こちらは未見。
そのシャフトが、演技派スターのサミュエル・L・ジャクソン主演でリメイクされた。
アイザック・ヘイズによる有名なテーマ曲が流れるタイトルバックはかなりの格好良さ。タイトル・デザインのクールさでは近年で一番だろう。この部分見たさに、もう一度冒頭だけ観てしまった（余談だが、丁度この時期にこの曲のパクリを「ほのぼのレイク」のTV-CFでやっていた。レイク・エンジェルの曲自体かなりそっくりで笑ってしまう。”Shaft！”と女性コーラスが入るところを”Lake！”とやっていて、かなり似せていた）。
リメイク版でのシャフトはNY市警の花形刑事。同僚に頼られ女性にモテる男だ。スキンヘッドに全身最新ブランドのファッションで固め、見るからにスキがない。『黒いジャガー』のシャフトは叔父で探偵事務所を営んでいる設定。リチャード・ラウンドトゥリーもちゃんと顔を出す。今だに女たらしなのが可笑しい。今度のシャフトは女性にモテモテでもベッドシーンはまるで無く、裸もタイトルバックのみ。エイズ時代のシャフトということだろうか。007だけ例外なのかね。
人種差別主義者の御曹司（クリスチャン・ベイル好演）が黒人殺害容疑でシャフトに逮捕される。ところが御曹司は親が莫大な仮釈放金を払った為に出獄、目撃者（トニ・コレット）は身の危険を感じて行方をくらませる。やがて御曹司は海外逃亡、その後麻薬組織のボス（ジェフリー・ライト）とシャフトとの睨み合いが挟まれる。月日は経ち御曹司はわざわざ帰国する。目撃者が行方知らずなので大きい態度も取れるさ、とばかりに憎々しげだ。クリシャチャン・ベイルは『太陽の帝国』（1987）で主役だったのに、ありゃりゃ随分と不気味な青年に成長した。今回は名作『ダーティハリー』（1971）のサソリに並ぶ憎たらしさ。悪党が映えればそれだけ映画への興味は増そうというものである。
しかしこの作品、どうもはじけない。監督のジョン・シングルトンの資質が真面目過ぎるのだろうか。途中にある、判事の裁定に怒ったシャフトが、警官バッジを判事の脇の壁に投げ付けると、バッジが壁に突き刺さる、といったようなケレン味がもっとあって良かった。B級娯楽映画に徹しても良かったと思う。
脚本にも問題がある。麻薬組織の話と御曹司の話が途中で交叉するのではなく、御曹司だけの話に徹して良かったのではないだろうか。複雑になっただけで盛り上がりに欠けるのだ。加えてシャフト像がすっきりしない。オリジナル版では私立探偵なので、法に関係無く制裁が出来る立場だった。今度は刑事なので基本的には法の立場にいるのですが、時に逸脱するようで法を遵守したりで、性格に一貫性が見られない。同じ腕っ節刑事でもハリー・キャラハンの方が一貫性があった。
しかしこのクールな主人公は捨て難い。サミュエル・L・ジャクソンは最高にカッコ良く演じている。アメリカではヒットしたので続編が作られる可能性は大。同じ主演・同じテーマ曲で、但し別の監督・脚本家で続編を見たいと思った。
- 2000年 / アメリカ / カラー / 99分 / 画面比：2.35:1
- 映倫（日本）：指定無し
- MPAA（USA）：Rated R for strong violence and language.
- 劇場公開日：2000.11.12.
- 鑑賞日：2000.11.19／渋谷パンテオン／ドルビーデジタル
- 公開2週目の土曜初回、1119席の大劇場はガラガラだった。
- プログラムは500円で、オリジナル版についての記述も詳しい。
- 公式サイト：http://www.uipjapan.com/shaft/ ピンボールゲームのプレイ、予告編ダウンロードなど可。オリジナルの『黒いジャガー』や「ブラックスプロイテイション映画の歴史」などについても知ることが出来ます。またサントラCD収録曲をMP3で試聴可能。
