あの頃ペニー・レインと



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1973年。15歳の少年ウィリアム(パトリック・フュジット)は、サブカルチャー誌ローリング・ストーンでプロのライターとしてデビューすることになる。ロック嫌いで厳格な大学教授の母親(フランシス・マクドーマンド)が心配する中、ブレイク前のロックバンド、スティルウォーターのツアー取材の為に出発。そこでグルーピーのリーダー的存在、ペニー・レイン(ケイト・ハドソン)と出会いう。


寡作ながら良質のコメディ=ドラマ作品を発表しているキャメロン・クロウは、個人的にも好きな監督・脚本家だ。何らかの理想を持っている主人公が、現実の壁に直面して悪戦苦闘する様と、安易なハッピーエンドを避けながらも鑑賞後の気分を良くさせてくれる作風は、幸いにも健在だった。今回はスター不在で、北米・日本で興行的苦戦を強いられたようだが、中身の充実度でも過去の作品に決して負けていない。自伝的青春物語であると同時に、失われた時代への思いが強い映画に仕上がっている。


実際には当時のロック業界は、映画で描かれる以上にドロドロした世界だったのかも知れない。多分にクロウの中で美化されているのだろう。でもこれで良いのだ。失われた時代への郷愁がテーマなのだから。少年の瞳に映った眩しい世界、その中でも一際輝くペニー・レイン。損得抜きでバンドを愛する”バンド・エイド”を自称する彼女は、ロックの1つの象徴でもある。いや、ロックを見守る女神・母親の象徴と言うべきか。ケイト・ハドソンの実の母親ゴールディ・ホーンゆずりエラの張った顎と涼しげな眼差し、伸び伸びした演技が印象的だ。


劇中では、個人的にかつて聴いていたイエスの曲が幾つか流れたりすると、単純に嬉しくなったりとかがあった。が、1970年代はまだ幼少だった僕にとって、この映画の時代性というものは実感として分かりにくいものになっているのも正直なところだ。それでもここで描かれた世界は魅力的である。選曲やその使われ方もクロウらしく相変わらず上手いし、登場人物が血の通った人間として描かれているから。羨望の的だった大人たちが正体を現し、まだ世を知らぬ少年が傷付けられてしまったとしても、だ。様々痛みを覚えた少年が、それでも「ロックとは何か」とミュージシャンに問うラストシーンも、ロックに対する作者の思い入れを感じさせる。


クロウの演出と脚本は、個々のエピソードに笑いを塗すことも忘れず、細やかな扱いも心地良い。ウィリアムの母親の描き方などもおかしみたっぷり(サイモン&ガーファンクルのLPジャケットのエピソードなど!)。その一方で、親元を離れた息子を思う気持ちを、母親が講義の最中に生徒達に思わず吐露してしまう場面など、胸を打つ。実在した先輩ジャーナリストであるレスター・バンクスの助言も(「ロックは既に死んでいる」等)も、演ずるフィリップ・シーモア・ホフマンの好演もあって心に響くものがある。マスコミも含めた70年代のロック音楽業界内幕ものとしても、興味深いものになっているが、これ見よがしでない優れたドラマとして滋味深い。


少年の成長物語に理想を忘れた大人たちを絡ませる手管など、今更珍しくもないだろう。しかしディテールの積み重ねが説得力のあるものにし、凡庸の陥穽に陥ることを避けている。ペニー・レインも実際には不幸な道を辿るのに、終盤のさらりとした扱いにも好感が持てた。彼女の姿にロックの1つの時代の終焉と、クロウ自身のロックへの想いを重ね描いているからだ。


あの頃ペニー・レインと
Almost Famous

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 123分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for language, drug content and brief nudity.
  • 劇場公開日:2001.3.16.
  • 鑑賞日:2001.3.20./新宿シネマ・カリテ1/ドルビーデジタル
  • 公開4日目、祝日昼の回。133席の小劇場はほぼ満席だった。
  • プログラムは500円。主要スタッフ・キャストのプロフィールは各々ミニ・インタビューも収録して充実。見開きで60〜70年代ロック年表があったり、中古レコード屋店長インタビューも2つあり。本文レイアウトが雑誌っぽくて宜しい。ちょい残念なのは、当時日本版もあったローリング・ストーン誌から、クロウの記事を転載してあれば、ということ。エリック・クラプトンボブ・ディランなど、そうそうたる面々にインタビューしていて、翻訳記事もあったのだから。まぁ、難しいのは分かるけど。
  • 公式サイト:http://www.spe.co.jp/movie/almostfamous/ 予告編、上映劇場案内、プロダクションノート、スタッフ・キャストの詳しいプロフィールなど、コメディ/ドラマ映画系ではかなり充実したサイト。但し、オスカー受賞(オリジナル脚本賞)のアップデイトがありません。