チキンラン



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


養鶏場のニワトリたちが集団脱走する話をクレイメーション(粘土アニメーション)で映像化したコメディ映画。高いレヴェルの技術力と芸が堪能出来る作品だ。製作は傑作シリーズ『ウォレスとグルミット』などで有名な、イギリスのアードマン・スタジオ。今回はドリームワークスとの共同製作であり、初の長編作品だ。監督は『ウォレスとグルミット』の生みの親ニック・パークと、アードマン社長で優れたアニメーターであるピーター・ロードが担当している。


何はともあれ、ニワトリに歯が生えているのはヘンだ、などという屁理屈を捏ねずに楽しむのが正しい鑑賞方法。可愛くデフォルメされたキャラクターと、精巧な動きのアニメーション、しかも数十匹同時に動く様に感嘆するヒマなんてありゃしない程、内容はよく出来ている。


まずは明確に描き分けられた各キャラ。脱走に失敗する度に独房に放り込まれ、壁相手にキャッチボールする不屈の魂の持ち主である”ヒロイン”のジンジャー、殆ど雌鳥の場所に空から落ちてきた胡散臭い救世主(?)の雄鶏ロッキー(声はメル・ギブソン)、英空軍のマスコット(笑)という過去を持つ老雄鶏のファウラー等、ニワトリ達は皆個性的。一方悪役であるニンゲン側は、養鶏場のオーナーである悪辣なミセス・トゥィーディ、間抜けな夫ミスター・トゥウィーディという塩梅。


単純なプロットに詰め込めるだけ詰め込んだ数々のアイディアには感服する。序盤に登場する数々の脱走珍作戦、訳も無く巨大で複雑なギミックを持つチキンパイ製造マシンでの危機一髪、ハラハラドキドキ大爆笑でしかも予想外にスペクタキュラーなクライマクス。ちょこまかと細かい機械類のギミックは『ウォレスとグルミット』でも目立だっていた。これは『007シリーズ』や『サンダーバード』などに代表される、イギリスらしい個性なのだろう。


さらに全体に塗されているのが、『第17捕虜収容所』(1957)『大脱走』(1963)といった、過去の傑作脱走映画のパロディ。特に『大脱走』への目配せは目に付く。先に述べた独房のキャッチボールはおろか、脱走手段の数々、おまけにキメ所ではバイクに乗って柵越えジャンプときたもんだ。ここまでくりゃ、文句も無いだろうというもの。


技術的な細かい話で言うと、どうやら粘土を使っているのは、キャラクターの頭部と両手くらいのようだ。金属製骨組の入ったゴム製の胴体に付けているのだろう。それから毎度のことながら、大画面に耐えうる細かいミニチュアにも感心する。


初の長編ということで張り切ったのか、テンポがかなり早くなった分、あの独特の朴訥とした雰囲気が失われたのは惜しい。でも次の長編は『ウォレスとグルミット』の新作となるそうなので、首を長くして待とうではないか。今回は企画から完成まで4年(撮影に18ヶ月)掛かったそうだが、次はもう少し早く見られると良いですなぁ。


チキンラン
Chicken Run

  • 2000年 / イギリス / カラー / 84分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated G
  • 劇場公開日:2001.4.14.
  • 鑑賞日:2001.5.4./渋谷エルミタージュ/ドルビーデジタル
  • 上映開始1ヶ月後、日曜午後一の回。302席の中劇場は6割の入り。子供連れも目立った。
  • プログラムは500円、オールカラーです。豊富な写真と意外にも丁寧なプロダクションノートは、資料価値があります。
  • 公式サイト:http://www.chickenrun-jp.com/ 上映劇場案内、壁紙、グリーティングカード、プロダクションノート、スタッフ・キャストの紹介、予告編、BBSなど。見た目も楽しいサイトです。