ビッグムービー



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

独立系映画会社のオーナーで映画監督のボウフィンガー(スティーヴ・マーティン)は、傑作脚本(と、本人は思っている)を入手する。侵略テーマのSFで、これは素晴らしい映画になると直感、大スターのキット・ラムジーエディ・マーフィー)に出演交渉しにいきますが、マトモに相手にもされない。そこでボウフィンガーは計略を企てる。キット出演場面は、他の俳優たちと絡むのも含めて、キットに内緒で隠し撮りしようというのだ。こうして売れない監督一世一代の大博打が始まる。


珍しく、ビデオで観た作品のレヴュー。いや、これは不本意なのだ。日本での劇場公開をもの凄く楽しみにしていたのに。本国アメリカでもヒットしたし、作品も好評だったのにも関わらず、脚本・主演のスティーヴ・マーティンの日本における知名度が低いので、とうとう劇場未公開になってしまった。しかし先日DVDレンタルで観て、腹を抱える程大爆笑をしたので、ご紹介しよう。


この映画の可笑しさは、なりふり構わず映画完成に突進するボウフィンガーの姿勢と、隠し撮りされるキットの行動にある。


ボウフィンガーの作る映画は紛れも無く”クズ映画”なのだろうが、本人の有り余る情熱を観ていると、それも愛すべき作品に見えてくる。チャチな特撮に陳腐な台詞もボウフィンガーの情熱の賜物。最初は単に大笑いするだけの観客も、やがて知らず知らずの内に彼を応援していくだろう。スティーヴ・マーティンも、ちょっとヘンだけど機知に富む監督という役柄に自分の持ち味を出している。この人のフィルモグラフィを思い返すと、一貫して知性のあると世間一般では思われている職業に付いている役を演じている。でもクレイジー、というのが得意だ。


一方のキットは大スターらしいリッチな生活に不遜な態度、新興宗教にはまっているのも現代ハリウッドらしくて笑わせられる。演じるマーフィも極端にカリカチュアライズして見せ、上手い。しかも誇大妄想気味な大スターという設定が、可笑しさに拍車をかける。宗教のお陰で治癒しかけていた妄想が、見知らぬ他人に意味不明な台詞で話し掛けられたり、いきなり目の前で撃ち合いを始められたりで、さぁ大変。大爆笑ものだった。


こういったアイディアが面白い作品は、往々にして後半尻すぼみに陥りやすいもの。しかしこの映画はそこも難なくクリア。キットがすっかり怯え切って姿を隠した為、困ったボウフィンガーは瓜2つの偽者(マーフィー2役)を立て・・・と話は益々エスカレート。コメデイはこうでなくてはいけない。スティーヴ・マーティンの脚本は冴え、フランク・オズの演出もタイミング宜しい。ただ、笑いと話のテンポを上げるためか、ボウフィンガーら売れない映画人の悲哀が少ない。そこをもう少し感じさせてくれれば、大傑作になっただろう。


主役2人以外ではクリスティーン・バランスキーが良かった。舞台女優役で劇中殆ど唯一マトモな人の役柄。初めて観る女優で、自分の演技にプライドを持ちつつ他人も尊敬し、やや芝居がかった演技もポイントを抑えていて印象に残った。また、色気担当のヘザー・グレアムも可笑しかった。


ここまで大笑いした映画は本当に久々だ。幼少の頃に見たバスター・キートン以来かも知れない。


ビッグムービー
Bowfinger

  • 1999年 / アメリカ / カラー / 98分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for sex-related material and language.
  • 劇場公開日:日本劇場未公開
  • 鑑賞日:2001.1.23./自宅でのDVDレンタル鑑賞(29インチテレビ)。DVDは23分のメイキング、削除されたシーン集、NGシーン集、予告編などが収録されています(3,800円)。お勧めディスクです。
  • 公式サイト:http://www.bowfinger.com/ 本国版サイト。写真一枚のみで、他はな〜んもありません。
  • 国内盤DVD公式サイト:http://www.spe.co.jp/video/dvd/200012/sud-31161.html VHS版はDVDと同じ写真を使っているので、お探しになる際の目安にして下さい。また、VHS版パッケージには「誰でもいい、主役は君だ!」と大きく書かれ、笑えます。