アンブレイカブル



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

131人の乗客全員死亡の列車事故の中、只1人無傷で生き残ったデヴィッド(ブルース・ウィリス)。コミックブック画廊オーナーのイライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)は、デヴィッドに「お前は特別な能力を授かった人間なのだ」と言い寄る。イライジャは幼い時からすぐに骨折し易い体質で、自分とは対称的な人間の存在を信じ、長年探していたというのだ。デヴィッドは単なるコミック狂の妄想だと取り合わないのだが。


はっきりさせておくと、この映画に佳作『シックス・センス』(1999)の「衝撃のラスト」を期待するのは無駄だ。そんなものはここにはない。M・ナイト・シャマランブルース・ウィリス主演の最新作は、宣伝にある「伏線」「罠」などという戯言に惑わされることなく、「普通に」観るのが正しい鑑賞法である。


シックス・センス』にあった様々要素は継承されている。主人公が自分自身を知る展開。落ち着いた色彩の映像。決して声高になることなく使命を果たそうとする主人公。冷え切った家庭を取り戻す最後。シャマランは監督としてまだ3作目なのに、脚本・映像共に既に自分の作風を確立している。しかし僕は今回の脚本には左程感心しなかった。


今回も終盤近くに主人公が己の能力を知るのだが、ここまで引っ張らなくても良かったのではないだろうか。観客には既にデヴィッドが特別な能力の持ち主だと分かっている。様々な伏線というより、露骨な描写がばら撒かれているだけに、先が読めてしまう。この作品がそもそも観客に驚きを与えるのが目的ではないにしても、丁寧と冗長は紙一重の差だ。どうせなら中盤で思い切って主人公の正体を明かし、それからの行動に焦点を絞った方が良かったのではないだろうか。そのようなアプローチをしても、主人公の心理に焦点を当てるテーマは損なわれない筈だ。


シャマランはパワーで引っ張る監督・脚本家ではない。むしろ丁寧な脚本と演出が身上。彼が超自然現象を扱う場合、細部に宿らせるものが命なのだ。しかし今回は細部が強引なのが引っ掛かった。例えばデヴィッドが会社の事務員に、自分の過去3年間の病欠記録を調べてもらう場面がある。過去3年間無欠勤の人間がわざわざそんなことを調べてもらう程、記憶が曖昧なことがあるのだろうか。微妙に崩れかける現実味は脚本だけではなく、ブルーワーカーに見えないブルース・ウィリスにも原因があるようだ。それでも前回にあった特殊能力を善行に使うテーマを一歩押し進め、今回は善だけでなく悪をも描こうとする野心は買えるラストも悪くない。


上記の様に欠点もある今作だが、僕はこの作品に惹かれるものを感じた。全体の落ち着いた雰囲気、長回し撮影に捉えられた役者の演技の緊張感や、時にシンメトリー/時に下逆様の画面構成、沈んだ青と淡い白の光線の映像は魅力的だ。優秀な撮影監督エデュアルド・セラ(『髪結いの亭主』(1990)、『鳩の翼』(1997))の貢献は大。湿り気と寒々しさをたたえたフィラデルフィアの街並みと、主人公が世界の中で異質であるというテーマとが、見事に表現されていた。


尚、今回もシャマラン本人が役者としても顔を出している(クレジットでは”Stadium Drug Dealer”)。


アンブレイカブル
Unbreakable

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 110分53秒 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for mature thematic elements including some disturbing violent content, and for a crude sexual reference.
  • 劇場公開日:2001.2.10.
  • 鑑賞日:2001.2.10./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1
  • SDDSでの上映。公開初日の夜7時30分の回、452席の劇場は7〜8割の入りだった。
  • プログラムは600円、ボリュームがある割に各映画人が自分の感想を勝手に書いているだけで、実りの無い文章が殆ど。シャマラン、ウィリス、ジャクソンの合同インタビューが数少ない収穫です。
  • 公式サイト:http://www.movies.co.jp/unbreakable/アンブレイカブルな実話集」「あなたのアンブレイカブル度テスト」などあり。映画のエンドクレジットの最後に、特別サイトのパスワードが出るので要注意。興味のある人は最後の最後まで見ましょう。