スペース カウボーイ
★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。
軌道上を回る旧ソ連の大型人工衛星が故障した。このままでは地表に落下して大惨事になってしまう。しかしNASAの技術力を持ってしても、現職スタッフには旧式過ぎて修理できない。そこで、かつての宇宙パイロットらに急遽召集がかけられる。メンバーに当時の人工衛星の開発者がいたのだ。一度は宇宙飛行を約束されたものの、チンパンジーにとって代えられる屈辱を味わっていた彼らにとって、初の宇宙飛行が始まる。
え、それって『アルマゲドン』だよ。もう観た、だって? 確かにプロットは同じと言っても過言でない。しかし騒々しいだけでスリルも何もあったものじゃない、押し付けがましいあちらとは全く違う。クリント・イーストウッド22本目の監督作品は『ファイヤーフォックス』(1982)以来の特撮もの、しかも初の宇宙もの。それでも気負うことなくいつもと同じペースで通し、押し付けがましい低能サル並大作とは180度違う作風を維持している。
映画は2部構成になっている。前半は老飛行士たちが若手と張り合う爆笑ものの訓練、後半は宇宙に出てからのスリラー。特に前半はイーストウッドの確かな手綱さばきと、俳優たちの演技でかなり楽しいものになっている。
老優たちのメンツは以下の通り。いがみ合い続けて半世紀のイーストウッド(実年齢70歳)とトミー・リー・ジョーンズ(54歳)の凸凹コンビを軸に、女たらしのドナルド・サザーランド(66歳)、唯一の”大人”で引退後に神父となったジェームズ・ガーナー(72歳)。このおやじたちの顔に刻まれた皺を見よ。
この中では特にサザーランドが好演、このところ大作で詰まらない悪役をやってばかりいたからか、久々にのびのびと嬉しそうに演じている。反対にガーナーは今一つ持ち味を出し切れていない気がした。彼の持つ明るさの中の陰が出ていなかったのだ。『大脱走』(1963)、『マーヴェリック』(1994年)や、TVシリーズ『ロックフォードの事件メモ』(1974)の彼が好きだっただけに、少々残念だ。
楽しい前半とは反対に、後半は脚本の整理が不完全な印象を受けた。説明不足の個所があり、直ぐには事態を呑み込みにくい場面もある。それでも生意気なだけで、いざ宇宙に出ると役立たずの若造どもを尻目に、主人公達がユーモアと心意気、技術力で事態を打開していく様は痛快だ。それが単なる嫌味にならないのは、前半で主人公達の情けなさでかなりの笑いも取っているから。あの歳でお尻出すなんて、ようやるわ。
意外な収穫はレニー・ニーハウスの音楽。サックス・プレイヤーでもあるニーハウスは、自身もジャズ・マニアのイーストウッド作品の常連作曲家である。今回は宇宙で鳴り響くジャズかと勝手な予想を立てていたら、宇宙大作ものらしくシンフォニックで迫力あるスコアを提供していた。
この映画で目に付くのはイーストウッドらしい省略と簡潔さだ。中盤のスペースシャトル発射シーン、クライマクス、帰還シーンとスペクタキュラーなシーンも、大袈裟な演出と音楽で盛り上げるようとする小賢しさはない。必要最小限な描写のみに留められているのだ。単に薄味・あっさりしているのではなく、要所にユーモア、死生観、音楽センスを散りばめていて、独自の刻印を押している。ここがイーストウッドらしい。
僕自身はラストシーンが一番好きだ。月面の軌道上から地表にキャメラが移動すると、そこは夢とユーモアが漂う中、寂しさと悲しさもひょっこり顔を出し、観客の想像力を刺激してやまない。バックに流れるのはフランク・シナトラの『Fly Me to The Moon』。これが”粋”でなくて何だろうか。
- 2000年 / アメリカ / カラー(一部白黒) / 130分 / 画面比:2.35:1
- 映倫(日本):指定無し
- MPAA(USA):PG-13 for some language.
- 劇場公開日:2000.11.3.
- 鑑賞日:2000.11.5./渋谷東急2
- ドルビーデジタルでの上映。公開3日目の日曜初回、381席の場内はほぼ満席。
- プログラムは700円で、全34ページ。主役4人の紹介には、それぞれ最低2ページが割かれています。何故か嵐山光三郎と逢坂剛の対談あり。6ページにも渡る「イーストウッド小辞典」まであり、かなり読みでがあります。
- 公式サイト:http://www.spacecowboy-jp.com/ 作品情報に加え、NASAの宇宙開発年表が役に立ちます。