オーロラの彼方へ



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

マンハッタンの空にオーロラが現れた日、刑事(ジム・カヴィーゼル)は30年前に殉職した消防士の父(デニス・クエイド)の無線機を使い、30年前の父と交信してしまう。それは意外な再会であった。


昔のTV『未知の世界(別題『ミステリー・ゾーン』)』か、はたまた藤子・F・不二雄の漫画か。出だしのアイディアは、そんな過去の名作にでも登場しそうで、非常にユニークだ。


過去を変えられたら、というテーマはSFではありふれているが、そこからさらに面白いかどうかは工夫次第。前半は父と子の『フィールド・オブ・ドリームス』(1989)を思わせるファンタシーで、同じ部屋の同じ無線機を共有し、時空を隔ててしんみりしたムードで語り合う場面が宜しい。俳優たちの見せ場の一つだ。妻に去られた孤独な息子を演じるカヴィーゼルも良いが、ここはクエイドがアメリカの理想の父親像を演じていて特に好演。『ライトスタッフ』(1983)『インナースペース』(1987)などではやんちゃなアメリカ人像を演じていたのに、すっかり良い意味での大人を演ずるようになったんだなぁ。大人でありながら童心も失わない姿を自然に表現している。演技者としての彼の代表作になるのではないだろうか。


中盤からは急展開。過去を変えた為に当然ながら現在も変わってしまう。予期せぬ人が犠牲になってしまっていた迷宮入り連続殺人事件を、父子の時空を越えた協力で追い掛ける、サスペンス/ミステリへと変貌していく。


これがデビューとなるトビー・エメリッヒの脚本は、プロットだけでなく細部にもアイディアが詰まっていて楽しい。例えば30年前の父が証拠を隠して無線で場所を教えると、現在の息子がそこを探すと証拠が保管されていた、という具合。スリリングでわくわくするし、こんな場面は小説でも映画でもお目に掛かったことが無い。過去の変え過ぎで宇宙が崩壊しないかとちと心配にもなるけど、個人的には甘々のラストは抑え気味にして、多少寂しさを醸し出せてくれればさらに良かったろうと思った。ハリウッド映画らしいと言えばそれまでか。


オカルト・スリラーの前作『悪魔を憐れむ歌』(1998)が今一歩だったグレゴリー・ホブリットの演出は、終盤のサスペンスの盛り上げがやはり今一つ。ここは胃がきりきりするくらいに盛り上げて欲しかったところだ。それでも前作でも上手かった、主人公の孤独感・閉塞感が良く出ているので及第点だろう。


派手な特撮は少なくとも、全体にSFファンタシーとして楽しめる小品として記憶に留めたいところ。そっけない原題『周波数』を、内容に合った邦題にした配給会社GAGAにも、座布団1枚進呈したい。


オーロラの彼方へ
Frequency

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 118分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense violence and disturbing images.
  • 劇場公開日:2000.12.9.
  • 鑑賞日:2001.1.11./渋谷シネフロント
  • ドルビーデジタルでの上映。公開5週目の最終日、平日金曜の最終回は、245席の劇場で20人くらいの入り。お正月興行としても寂しい結果だったらしいのが残念。
  • プログラムは500円、映画のタイムトラベルの理論付けや、伏線となるニューヨーク・メッツ(”ミラクル・メッツ”)の解説が楽しい。
  • 公式サイト:http://www.aurora-jp.com/ インタビュー、プロダクション・ノートなど充実した内容。BBSありの映画公式サイトが増えてきましたね。