ダイナソー



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


東宝系劇場は金曜第1回の上映が1,300円均一だ。なので渋谷の劇場に飛び込んだら、その回は日本語吹替えの上映だった。でも今回のディズニー作品は全編実写の背景とCGIキャラで作られた作品なので、画面に集中するという点では吹替えでも全く構わない。そんな訳で袴田吉彦江角マキコらの声を聞きながらの鑑賞だった。


内容は全く他愛の無いもの。隕石の落下による災害を逃れるべく、雑多な草食恐竜たち(と猿の家族)が安住の地を求めて旅を続けるが、彼らはしつこく付狙う肉食恐竜たちの影に怯える・・・と、筋は全く大したことはない。ディズニーなので当然恐竜も台詞有り、しかも喋るのは草食恐竜と猿のみで、肉食恐竜連中は喋らないで咆哮するのみ。崖に囲まれた理想郷に辿り着くのも草食恐竜らの旅団だけで、そうすると全滅するのは肉食恐竜かいな。恐竜好きなお子様観客を狙ったものなのだろうか、余りに単純な善悪二分化。草食恐竜だけ生き残ったら植物は食い潰され、やがては生物は全滅するだろうに。こういった独善的で偽善で浅薄な自然に対する考えには、やはりディズニーアニメの『ライオン・キング』(1994)に通ずる、悪い意味での西洋主義的な優越感を非常に強く感じる。ここで言う西洋主義というのは、全ての生物の生命の価値は等しい筈なのに、例えば「牛肉は食べても問題無いが、鯨は子供を育てるから鯨肉を食べるのは残虐物だ」とか、「動物を殺して肉を食べるのは野蛮だけど、植物を殺して食べるのは違う」といった思い上がりのことだ。かようにこの映画の脚本はかなり胡散臭い代物なのである。


この映画の元々の企画は、『ロボコップ』(1987)で意気投合した監督ポール・ヴァーホーヴェンと、モデル・アニメーターのフィル・ティペットによるもの。ウォロン・グリーン(『ワイルドバンチ』(1968))が書いた最初の脚本では、恐竜は全て隕石で全滅し、猿だけが生き残るというものだったそうな。当時は全てモデル・アニメーションでの製作予定だった筈だが、企画は頓挫。ヴァーホーヴェンが監督していたら、きっと弱肉強食が苛烈極まる作品になっていただろうし、そっちを是非とも観たかった。死んだ子の歳を数えても仕方無いけど。


内容は全く下らないとしか言いようが無いが、どっこい映画はそれだけではないのも当たり前。この映画の映像の素晴らしさは、確かに他では体験出来ないものだ。実写の風景にCGIで書き込まれた古代の植物、それを食む大人しい草食恐竜、そこに襲い掛かる肉食恐竜。飛び回る翼竜の後をキャメラは延々追っかけ回し、やがて海を越え…と、冒頭数分のシークエンスから映像の持つパワーに圧倒される。恐竜はディズニーらしくデフォルメされているけども、質感・重量感はきめ細かく描きこまれているし、動きも非常に滑らかだ。恐らくコスト面で背景は実写にデジタル修正したものを採用したのだろう。それが結果的に世界を徹底的にリアルにしていることに繋がり、作品世界のルックが成功しているのだ。


映画ファンとしては内容にかなり不満、でもかつて恐竜好きの子供だった身としては映像に魅入り(まぁアホっぽい恐竜のツラは今ひとつだけど)、何とも複雑な印象を持った。これが偽らざる感想だ。


ダイナソー
Dinasaur

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 82分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG for intense images.
  • 劇場公開日:2000.12.9.
  • 鑑賞日:2001.1.19./渋東シネタワー3
  • ドルビーデジタルでの上映。公開後1ヶ月経ってからの平日金曜、346席の場内はさすがにガラガラだったが、子供連れの姿が目立った。
  • プログラムは600円写真をふんだんに使い、内容でも登場する恐竜の解説などあり。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/dinosaur/ お勧めは「メイキング」の「恐竜の足を動かしてみよう」。CGIアニメでの動き作りがちょい分かります。「メイキング」は内容が少ないものの、全体に面白いです。