レッド プラネット



★film rating: C
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

地球の荒廃により、人類は火星のテラフォーミング(地球化)を目論む。苔を生やして酸素を増やすなど計画が順調に進んでいた矢先、急に環境の異変が。調査に向かった人類初の有人探検隊は軌道上の事故により、船長以外は脱出ポッドで地表に緊急避難。着陸したクルー(ヴァル・キルマートム・サイズモアら)と軌道上の船長(キャリー=アン・モス)の地球帰還への苦闘が始まる。


人類初の火星探検を描いたSF映画レッド プラネット』は、昨年公開されたブライアン・デ・パルマの怪作『ミッション・トゥ・マーズ』(2000)に引き続きの火星事故映画だ。しかしこの2本とも映画としての出来が芳しく無いのを観ると、火星映画は作り手が余程しっかりしないと失敗する可能性が高いのではないかと思われる。険しい岩地と砂漠の光景は、いくら雄大であっても単調にならざるを得ないし、下手すりゃ「砂漠で赤いフィルターかけて撮っただけだろう」と言われるだけのこと。かと言ってリアリズム映画の場合、いきなり怪物を出す訳にもいかない。そこは意表を付いていきなり巨大砂虫(嵐?)を登場させ、しまいには宇宙人を登場させて自爆した『ミッション・トゥ・マーズ』は、ある意味エラかった。こっちはその点自重して、アイボに似ている探査ロボットが事故のショックで軍事ロボットの本性を出してクルーを襲いだすという、あまり面白くない展開にしている。ロボットのデザインや特撮が良く出来ているからといえ、こんなアイディアは今までにも掃いて捨てる程あった。この映画で興味引かれるアイディアだったのは、最近注目されている火星のテラフォーミングを初めて劇映画で採用したことくらい。軌道上の事故も、襲い出すロボットも、火星の生物も、既成のアイディアの寄せ集めに過ぎない。


SFというのは全てオリジナルなアイディアでなければいけない、などと言うつもりは毛頭ない。過去のアイディアを寄せ集めても、面白いアレンジで新しいものが出来れば良いのだ。残念ながらそれがこの映画には無い。不時着後の単調な展開を見るにつけ、脚本の工夫が足りなかったのは明白だ。


脚本が足りない部分を演出で補えばまだ良かっただろう。スリルとドラマでそこそこ成功する可能性もあった筈。前述した単調な展開は、脚本のみならず演出の罪も大きい。監督のアントニー・ホフマンはナイキ、日産などのTV-CFで有名な人らしいが、一瞬一瞬の映像センスはともかく、全体のスリル/サスペンス、人物描写の深みに決定的に欠けている。特にぞんざいな人物描写は、誤って仲間を殺してしまったクルーの中途半端な扱いなどに現れている。年の功で益々深みの出てきたテレンス・スタンプ演ずる哲学的な生物学者の役も、残念ながら余り効果が無かった。いくらキャリー=アン・モスが『マトリックス』(1999)のトリニティそのままに頭脳明晰・冷静・セクシーな船長を演じていても、それは素材としての彼女が魅力的なだけだろう。冒頭で船長がクルーの紹介をナレーションで行っただけで、人物描写に満足してしまったのだろうか(そのナレーション、後から慌てて追加したっぽい気もするけど)。


この映画は良く出来た特撮だけが取り柄。グレーム・レヴェルの音楽も印象無し。上映時間1時間46分が2時間以上に感じられる。この手の映画が好きな人(自分も入る)以外には、観る価値はない。



レッド プラネット
Red Planet

  • 2000年 / アメリカ、オーストラリア / カラー / 106分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for sci-fi violence, brief nudity and language.
  • 劇場公開日:2001.1.13.
  • 鑑賞日:2001.1.13./渋谷東
  • ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜初回、824席の場内は6割以上の入りだった。
  • プログラムは600円で可も無く不可も無しの出来。最近のプログラムは高いですね。この程度の内容なら500円以下でも良いです。
  • 公式サイト:http://www.redplanet-jp.com/ ”C・A・M GALLERLY”とあるので何かと思ったら、”キャリー・アン・モス ギャラリー”のことだったのね。予告編と殆どネタバレのコミック(全8ページ)あり。