13デイズ



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


意地悪な見方をするならば、このところすっかり落ち目の烙印を押されているケヴィン・コスナーが『JFK』(1991)の栄光よ再び、と製作・出演したJFKもののドラマ。といっても暗殺を扱った二番煎じではないし、コスナーがJFKその人を演ずる愚を犯している訳でも無い。米ソの緊張が全面核戦争に突入寸前まで張り詰めた、1962年のキューバ危機をアメリカ側から描いた作品だ。


コスナーは大統領補佐官ケネス・オドネルを演じ、JFKその人は中堅俳優のブルース・グリーンウッドが演じている。グリーンウッドは何とか危機を回避すべく苦悩する若きリーダーの責任感と重圧を、抑制を効かせつつ演じ切って見せた。弟のロバート・ケネディに扮するのは、スティーヴン・カルプというこれまた無名の役者。先読みし過ぎて凡プレイもしでかすが、冷静さと熱血を併せ持つ政治家として演じている。


コスナーはともかく、比較的無名な役者の起用は当たり、スターではなく役者の体温で演じられる主役3人は、理想的な政治家として描かれている。コスナーは只でさえ38歳に見えないのに完全な主役でないので、幸いにも下手な演技を披露する機会が少ない。


この映画の内容を一言で言えば、「ケネディらは偉大だった」。今ごろそんなこと言われても…だって? いやいや、政治という名の利権にたかるゴキブリ以下の悪徳商人を日頃のニュースで見るにつけ、やはり政治家には強力なリーダーシップと、理想を持った強い人が似つかわしい、などと思ってしまう。映画を観るのが現実逃避とするならば、この映画こそ今の日本で逃避するのに最も似つかわしい作品だろう。


実は夕食後にこの映画を観て、迂闊にも最初の30分は睡魔に襲われた。しまった、複雑な内容なのに、これでは物語が分からなくなってしまうに違いない!


ところがそんな心配は杞憂に終わった。手に汗握るスリラーとはこのこと。10分おきに訪れる危機また危機。ケネディら”良い政治家”と、強硬な”悪い軍部”の分かりやすい対立、軍部や様々な思惑を何とか出し抜こうとするケネディらの頭脳プレイの数々で、2時間半(僕は最初寝ていたから2時間か)の上映時間、スクリーンに釘付けになる。駄作『ホーンティング』(1999)を書いたとは思えないデヴィッド・セルフの脚本は、複雑且つ多岐に渡る事件の数々を的確にさばいて小気味良いくらい。これでオドネルの家族描写さえばっさり落とせばさらに良かった。何せ他の登場人物の私生活は全く描かれていないのだから。現実のジョン・F・ケネディはどうしようもない女たらしでも、そんな事実はこの映画には関係ない。私生活については本を読めば良いじゃないか。また、映画の中ではハッピーエンドでも、後に暗殺の芽が蒔かれたはこのときか?と思わせるのも上手い。


この映画で落とされているもので重要なものがある。それはソ連側の内部事情だ。だが落として正解だった。時間と闘いながら探し出した数々の状況証拠を基に、ソ連側の真意を計りだそうとするシークエンスなど、探偵小説的な面白さ。ソ連が何を考えているか分からないから、罠か真実かとアメリカ側が疑心暗鬼になり、それがサスペンスを盛り上げるのだ。


ロジャー・ドナルドソンの演出は急ピッチで話を進め、特に二度に渡る米軍偵察機出動の件などかなりヒヤヒヤさせられ、思わず拳を握り締めてしまう。緊迫した実在の事件をタイトにシナリオ化しているのだから、これで面白くなかったら余程のヘボだ。そういう意味では抜きん出た仕事をしている訳ではないけれども、交通整理が行き届いているので、充分及第点を差し上げたい。但し、何を血迷ったのだろう、『JFK』を意識したのか幾度か画面が粗いモノクロになって、偽ドキュメントタッチの映像になる愚をしでかしているのは減点だ。


そういった瑕疵は見つかるものの、『13デイズ』は娯楽政治映画として出色の仕上がりなのである。


13デイズ
Thirteen Days

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 145分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for brief strong language.
  • 劇場公開日:2000.12.16.
  • 鑑賞日:2000.12.23./渋谷東急2
  • ドルビーデジタルでの上映。公開1週間後の土曜最終回。終了時刻は10時過ぎとなるのに、400席の劇場は大入り満員だった。
  • 600円のプログラムは詳細な解説でかなり参考になります。
  • 公式サイト:http://www.13days-jp.com/ 予告編、来日した監督・脚本家の会見採録があります。BBSに書き込まれた感想を見ると、”格好良かった”という意見が目立ちます。