ホワット・ライズ・ビニース



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

郊外の一軒家で主婦クレア(ミシェル・ファイファー)が体験する怪事件。発端は隣りに越してきた主婦が消え、クレアはその夫が夜中に大きな荷物を車に積み込む様を目撃したことだった。妻の話を夫ノーマン(ハリソン・フォード)はまともに取り合おうとしない。やがて家のドアがひとりでに閉まり、ラジオが勝手に鳴り出し、バスタブや鏡に若い女性らしき影が映るようになる。


スリラーの巨匠アルフレッド・ヒッチコックに憧れる監督は少なくない。しかし、憧れ・目指していても、同じくらいの賞賛を浴びるどころか、こてんぱんに批判される監督が多いようだ。ブライアン・デ・パルマが傑作『殺しのドレス』(1981)等を放っては、「ヒッチの出来の悪い模倣」と非難されていたのは有名な話ではないか。今回ヒッチに挑戦したのはヒットメイカーのロバート・ゼメキス。目指したのは、あからさまなヒッチの模倣を用いながらも、別の味わいがある作品だったのだろう。


クレアが体験する怪異そのものの描写は、昔のホラー映画のような奥ゆかしさだ。女性の影もあからさまに登場せず、存在をちらつかせて、クレアの幻想と受け取れるようになっている。特に序盤から中盤に掛けての展開は、大物スターが2人も出ている大作とは思えないくらいに地味なもの。ゼメキス作品の常連アラン・シルヴェストリのスコアは、やはりヒッチの名作に素晴らしい曲を付けたバーナード・ハーマンを強く意識して、『めまい』(1958)の不安げな弦の旋律の現代版を聞かせる。


不安と恐怖におののくミシェル・ファイファーを見ると、演技力と美貌を備えたスターだと再確認させられる。対するハリソン・フォードは、どうもこういったドラマ中心の作品ではいつも冴えない印象が強い。今回もその例に漏れず、凡庸な深刻演技を繰り返すだけだ。すっかり輝きを失ってのここ最近の低迷は、かつてのファンとして残念なこと。クレアの親友役ダイアナ・スカーウィッドは、シリアスな映画の中で嫌味無くユーモアを醸していている。


ところで、この映画の日本での宣伝方法については異議を唱えたい。


まず意味不明なカタカナ邦題。20世紀フォックス本社(ドリームワークスとの共同製作で、北米以外はフォックス配給)からの命令によるそうだが、皮肉なことにこれが足を引っ張ってヒットしていないとは如何に。カタカナだと一般受けするなどという死後硬直的思考を配給会社は即刻破棄すべきだろう。


次に予告などで後半のネタをばらしている点。事前にネタを知らなければ、ヒロインの驚きが観客のそれと一致するという効果的なプロットの筈なのに、自分で自分の首を絞めている愚を犯している。こういった映画は内容を知らない方が良いに決まっているのだから、高い入場料金を払っている観客にとっても不幸としか言いようがない。


という訳で、僕はこの映画からはついぞ驚きを得られなかった。地味で抑えたタッチが終盤にこれでもかのホラー描写の連打に変わるのは、さすが最近の作品らしいとは思う。サスペンス映画がスーパーナチュラル・ホラーに憑依される展開はヒッチには無い面白さだし、終盤に『サイコ』を思い出させる金切り叫ぶヴァイオリンも聞ける。でもそういった派手な場面に来るまでのドラマを、終盤のどんでん返しを知りながら待つしかないのだ。言い換えれば冗長なドラマ作品でもあるのだ。


肝心のクライマクスも今一歩スリルを感じることができなかった。特に河の中でのシーン、来るぞ来るぞと思わせてギクリとさせるのが本筋なのに、演出のタイミングが下手なので失敗している。少なくとも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)のクライマクスにあった、ドンピシャ決まった冴えはない。


『コンタクト』(1997)にも見られた現実には不可能はキャメラワークを特撮の力で借りて実現したり、ゼメキスの刻印はいたる所に散見される。しかしヒッチの模倣と思わせて実はオリジナルだ、と宣言するには作品自体の力がいささか弱い。あっさりとした作風は、冗漫なシナリオと演出によっては単なる薄味になるという見本だ。


ホワット・ライズ・ビニース
What Lies Beneath

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 130分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for terror/violence, sensuality and brief language.
  • 劇場公開日:2000.12.9.
  • 鑑賞日:2001.1.2./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘7
  • ドルビーデジタルでの上映。公開4週目のレイトショー、170席の劇場は満席でなかった・・・と思う。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/whatliesbeneath/ ハリソンの来日インタビュー、グリーティング・カード、予告編などあります。BBSに入力する際、「この作品の恐怖度」を人魂の数で回答するのが可笑しいです。