グリーン・デスティニー



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

引退を決意した剣の達人リー・ムーバイ(チョウ・ユンファ)の名剣・碧名剣が盗まれた。素早い身のこなしで武術に秀でている盗人を探す一番弟子のユー・シューリン(ミシェル・ヨー)は、犯人を結婚が近い貴族の娘イェン(チャン・ツィイー)と睨む。やがてムーバイの師匠を殺害した女盗賊ジェイド・フォックスや、若き盗賊の頭ロー(チャン・チェン)らが絡んでくる。


ホームドラマが得意と思われていた台湾出身の監督アン・リーの新作『グリーン・デスティニー』は、19世紀中国を舞台にした何とアクションもの。これが素晴らしい秀作だった。


プロットは複雑だが、この映画で複雑なのはそれだけではない。登場人物の心理もアクション映画としては複雑に絡み合っている。例えばムーバイとシューリンは愛し合っているが、それをお互いに明かすことはない。あくまでも師匠と弟子として接している。またシューリンとイェンは姉妹の契りを交わすが、後には2人は対決の道へと進んでいく。イェンとローは永遠の愛を誓っているが、イェンには親同士が決めた結婚が控えている。プロットも心理も複雑な映画でも、アン・リー監督は落ち着いた手さばきで、観客に伝えるべきことを伝え、暗示に留めるべきことは暗示のまま留めていく。


この映画のドラマ部分は静寂をたたえている。淡い緑を基調とした色彩と動きを殺した映像は、人物の内に秘めたものを表現している。しかしひとたび激しいアクションが始まると、映画は、映像は途端に走り出す。壁を走り抜け、水上を駆け、木々の上で舞い、超人たちの重力の法則を無視した剣術/武道には圧倒される。一つ一つのアクション場面は長く、しかも実際に俳優が演じていて動きもかなり速いので、見ていてアドレナリンがふつふつと沸き立つ。ブルース・リージャッキー・チェンら達人の域に達しているのではない、お馴染みの俳優が演じているので余計に興奮するやら感心するやら。


ただドラマ部分とアクション部分の静/動の振幅の差が激しいので、活劇場面が終わってからのドラマ部分で、急ブレーキを掛けてつんのめる感じはある。時にそれも効果的とは思うが、全編に渡るとなると少々違和感があった。それでもこの映画の魅力を損なうまでには至っていない。


チョウ・ユンファは本当に大スターだ。落ち着いた物腰と、アクションになると絵になる美しさ。威厳と肉体的な脆さを備えた稀有な俳優だ。ミシェル・ヨーは『ポリス・ストーリー2』(1992)や『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997)などのアクションでお馴染みだが、今回はきちんと演技も見せてくれる。余裕と怒り、哀しみを同居させる芝居が素晴らしい。


この映画で一番の掘り出し物は、イェン役チャン・ツィイーだ。可愛らしさと美しさを兼ね備えているだけではなく、無鉄砲さと傲慢さで後半暴走していく様は、その若さと過信ゆえと納得できる。芝居の技巧がどうのと言う以前に、全身で発散させる感情のほとばしりを、先の大スター2人にぶつけていく。逆を言えば、2人の落ち着いた大人たちがいるから、彼女が引き立つのだ。


音楽はタン・ドゥン、チェロのソロはヨーヨー・マ。2001年1月現在、TVで流れているマ出演のCFにて演奏されているのがこの映画のテーマ曲。哀切な響きが宜しい。


北京語の中国時代劇なので、大作ハリウッド映画ばかり観ている人には、敬遠する向きもあるだろう。むしろ最近のハリウッド・アクションに食傷気味の方にこそお薦め出来る、大活劇恋愛映画なのだ。



グリーン・デスティニー
臥虎藏龍 (Crouching Tiger, Hidden Dragon)

  • 2000年 / アメリカ、中国、台湾、香港 / カラー / 120分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG 13 for for martial arts violence and some sexuality.
  • 劇場公開日:2000.11.3.
  • 鑑賞日:2000.11.18./渋谷東
  • ドルビーデジタルでの上映。上映3週目の日曜日昼の回、453席の劇場は3分程度の入りだった。
  • 公式サイト:http://www.spe.co.jp/movie/greendestiny/ ユンファらスターの来日記者会見時の採録などあります。