ことの終わり



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

第2時大戦後のロンドン。夜の雨の中、主人公の作家ベンドリックス(レイフ・ファインズ)は、2年振りに知り合いの官僚ヘンリー・マイルズ(スティーヴン・レイ)と再会する。そしてマイルズの妻サラ(ジュリアン・ムーア)に男が出来たらしいと聞かされる。実は大戦中、ベンドリックスはサラと不倫の仲だった。空爆の最中での逢瀬を重ねた甘美な想い出。しかしベンドリックスは幸福の絶頂の中で突如別れを告げた彼女に、未だに愛情と裏腹の憎悪を抱いている。彼は探偵を雇い、サラの相手である”第三の男”の正体を探ろうとする。


”切ない”などという言葉が生易しく感じられる程、観終わった後に深い感銘を受ける恋愛映画を観て来た。幻想味溢れる作風で御馴染みのニール・ジョーダン監督の新作は、観終わってから胸に迫る秀作だ。


原作者グレアム・グリーンといえば、何といっても名作『第三の男』(1949)だろう。終戦後のウィーンを舞台にしたスリラーの名作で、美しいモノクロ撮影が醸し出す雰囲気と、アントン・カラスのチターの名曲が有名な映画だ。他にも『恐怖省』(1944)、『落ちた偶像』(1948)など、名作スリラーの原作も手掛けているが、僕は『第三の男』以外にはグリーンに触れたことはない。本作の原作『情事の終わり』は、デボラ・カーとヴァン・ジョンスン主演の同名映画『情事の終わり』(1954)としても有名だ。そして、この小説はグリーン自身の不倫体験を元にしているそうだ。


ミステリ仕立ての導入部は実に上手い。撮影もかつての映画を思い出させるソフト・フォーカス気味で、凝った衣装などのせいもあり、クラシカルでミステリアスな雰囲気を漂わせている。また現在とベンドリックスの回想とが混在して進み、やがて同じ事件をベンドリックスだけではなくサラからの視点でも語らせるという、重層的な構成になっていく。こういった作りとミステリ・幻想タッチは映画ファンならお楽しみだろう。そのミステリタッチが段々と心理ドラマ的に転調していくのも興味が沸く。凡庸で退屈な夫ヘンリーの正体も良いし、子連れ探偵が伏線となっていくのも話の上手さ。ジョーダンの演出も沈んだタッチでよろしい。またマイケル・ナイマンの音楽も演出同様に派手さを避けて賢明だ。明確なメロディを持たせない手法は、『ピアノ・レッスン』(1993)ではなく、佳作SF『ガタカ』(1997)に近いタッチだ。


ベンドリックス役ファインズは、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)以来の得意な役柄。冷酷で嫉妬深い面を持ちながら、一方ではサラに対する情熱を持ち続ける男を演じている。ムーアは気品にやや欠けるものの、それが後半の崇高な愛に翻弄される様が余計に効果的だと思った。ジョーダン作品の常連レイも個人的に好きな役者で、今回も余り表情を変えずに渋い演技を見せてくれて悪くない。実はこの映画で一番面白いのは探偵役イアン・ハート。息子を助手にしている、今一つ腕が良いんだか悪いんだか分からない、掴み所の無い男を飄々と演じている。それがこの作品の息抜きとなっている。


映画が進むにつれて明らかになる、「何故、サラはいきなり別れを告げたのか」「第三の男の正体」の真相は、単なる謎解きを超えた遥かに大きなものだった。最大の謎は人の心にあるのだろうか。「他人を愛するとはどういうことなのか」という疑問を、心も身体も引き裂かれたサラだけではなく、観るもの全てに突き付ける。その意味では非常に厳しい映画だ。安易で生半可なラブストーリーなどではなく、愛の深淵に触れようとしたこの映画にかなりの衝撃を受け、感動した。


ことの終わり
The End of Affair

  • 1999年 / イギリス、アメリカ / カラー / 102分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):R-15
  • MPAA(USA):Rated R for scenes of strong sexuality.
  • 劇場公開日:2000.10.14.
  • 鑑賞日:2000.10.28./シネスイッチ銀座1/ドルビーSR
  • 土曜朝一からの上映だったが、開場30分前から既に20人くらいの列。実は前日金曜の午後にも行ったのに、レディース・デイで女性割引ということもあってか「1時間前に来ないと座れません」と言われて出直した経緯あり。
  • 公式サイト:http://www.spe.co.jp/movie/endoftheaffair/ 劇場案内、批評、予告編などがある簡単なサイトです。