60セカンズ



★film rating: C
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


僕がB級アクション映画に期待するものとは、小振りながらも気の利いた展開、イキの良いキャラクター、『ターミネーター2(T2)』(1991)規模とまで行かなくとも、それなりに迫力のあるアクション場面、となる。さらには細かいディテールもあればOK。それらの要素が全ては揃っていなくても、まぁそれなりには楽しめるだろう。しかし全部が無いばかりでなく、性質の悪いことに大作ヅラまでしている場合は。単なるウドの大木、デクノボー、制作費の無駄以外、何ものでもない。


残念ながら、ニコラス・ケイジ主演の『60セカンズ』はそのウドの大木と化していた。


プロットは到って簡単。裏社会で生きる弟の尻拭いをすべく、かつては名うての車泥棒で今は堅気の兄貴が、弟の恐ろしいボスの為に、昔の仲間を呼び集めて3日間で50台もの高級車を盗もうとするもの。おう! 気の利いた監督ならば、こんな荒唐無稽な内容でも面白く見せてくれそうじゃないか。


だが立ちはだかるのは、悪名高いプロデューサーのジェリー・ブラッカイマー。この人のむやみやたらな大作志向は作品の足を引っ張ることがままあり、今回もその例に漏れなかった。ブッラカイマーは監督にCFやMTV出身の新人を起用する場合が多く、要は中身の希薄さを見てくれで誤魔化す人が好きなのだろう。


この『60セカンズ』がまるで駄目な理由は幾らでも挙げられる。


まず大作志向の悪しき例として、良い役者を無駄に起用している点。ニコラス・ケイジは別に演技は上手くないが、個人的には好きな役者の1人。でも今回はブロンド+増毛も効果無く、毛は濃くとも魅力は薄い。時折目をうるうるさせての善人演技にはうんざりだ。薄いと言えば、ポスターにはでかでかと載っているアンジェリーナ・ジョリー。『狂っちゃいないぜ!』(1999)、『17歳のカルテ』(1999)で発揮した存在感もまるで無し、前半ちょい出て中盤は全く姿を見せず、後半にまた顔を出すだけ。全くの脇役で準主役どころではない。JAROに言った方が良いんじゃないか。『サイダーハウス・ルール』(1999)で陰影に富んだ役作りを見せたデルロイ・リンドーも単なる刑事役。悪役を演ずるクリストファー・エクルストンも、『エリザベス』(1998)、『HEART』(1999)のあくどい演技とは雲泥の差。単なる木工オタクの悪役なんて詰まらない役を演じていて哀れを誘う。ロバート・デュヴァルだけはさすがに大ヴェテランの貫禄を見せるが、それでも勿体無いことに変わりない。皆さん、お小遣い稼ぎに出たのかな。


ディテールの無さも詰まらない原因だ。無理を言うなら、自動車泥棒が主役なのにその緻密な手口を見せてくれないなんて。金庫破りの手口を詳細に見せてくれた『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1980)とは雲泥の差だ。真似する人が出るからなのだろうけど、それでも何らかの説得力ある描写が必要だったのではないか。


アクションは終盤まで残していて、そこで一気呵成に行ったならばまだ我慢できただろう。ところが監督のドミニク・セナは、最近のCF、MTV出身監督が陥りやすいドツボに思い切りはまっている。短いショットを目まぐるしく繋げば迫力あるアクションをスリルたっぷりに表現できると勘違いしているトウヘンボクだ。


この映画のオリジナルは、1970年代カーチェイス映画の古典『バニシングin 60"』(1974)。製作・監督・脚本・主演はスタントマンの故H・B・ハリッキーだった。こちらは十数年前にはたまにTVで放送されていたのだが未見。同じくハリッキーのワンマン映画『ジャンクマン』(1982)を見ると、出来栄えはともかく、カースタントに掛ける情熱や執念は伝わるものがあった。ハリッキーは『バニシングin 60"』の続編撮影中にスタントで死亡したのだが、リメイク版のスタント場面を見たら無念ではないか。何せクライマクスのクライマクスでは、合成バレバレのジャンプなんだから。これでは泣くに泣けないだろう。


邦題にも納得がいかない。原題は訳すと『60秒で逃げろ』『60秒でズラかれ』とでもなろうか。原題の一部を単なるカタカナにする配給会社(今回はディスニーの配給部門ブエナビスタ)の無能さが分かろうと言うもの。おいおい、何とかしてくれ。


この映画、ゴージャスな車がぞろぞろ出てくるのは確かだけど、それならば自動車ショーに行って現物を見た方が良いに決まっている。ケイジが最後に乗るマスタング改造車のエンジン音だけが取り柄だなんて。この貧困さで2時間弱はつらい。


60セカンズ
Gone in Sixty Seconds

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 117分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for violence, sexuality and language.
  • 劇場公開日:2000.9.9.
  • 鑑賞日:2000.9.15./渋谷シネフロント
  • ドルビーデジタルでの上映。245席の劇場はほぼ満員。
  • この新しい劇場は初めて。場所は渋谷ツタヤのビル7階にあります。チケット売り場は1階で、全席指定席。窓口で座席表を見せてもらい、希望の座席をゲットしておくので、人気がありそうな作品でも席を確保しておけば、回が始まる直前に行っても座れます。前売り券を持っている場合も、窓口で当日の座席券をもらいましょう。座席はシネコンでは当たり前でも都心の劇場に珍しくカップホルダー付き、前に座高が高い人が居てもまず画面は観られるでしょう。但し背もたれの角度はもう少し斜めの方が好みです。