U-571



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


潜水艦映画に駄作無し、とよく言われる。その理由として、

  1. 狭い密室という緊張感溢れるドラマ作りがしやすい
  2. 巨大な密室にも関わらず動くので、静的にならない
  3. 見えざる敵の爆雷攻撃の恐怖や、魚雷攻撃の緊張感がある


などが挙げられる。名作と言われる作品には、『海の牙』(1946)、『眼下の敵』(1957)、『深く静かに潜航せよ』(1958)があるし、比較的最近では傑作『U・ボート』(1981)、『レッド・オクトーバーを追え!』(1990)、『クリムゾン・タイド』(1995)などもある。この『U-571』も駄作の烙印を押されるどころか、緊張感溢れる戦争アクション映画に仕上がっている。


第二次大戦において、ドイツ軍の暗号機として暗躍したエニグマ。連合軍は窮余の策としてエニグマ奪取を謀った。奪取後の解読により、連合軍は勝利へと大きく前進したという実話をベースにしただけでなく、過去の潜水艦ものを捻ったプロットにしたところに、この映画の面白さがある。


映画はドイツ軍Uボートが連合軍の艦船を攻撃する場面から始まる。敵を撃沈後、自らも爆雷の被害を受けるのは潜水艦映画で御馴染みの光景だ。しかし監督ジョナサン・モストウの演出が手堅くがっちりとしているので、いきなり非常な緊張を強いられる。掴みはOKだ。この後Uボートはエンジン類をやられてしまい、海上に浮かんで漂流を始める。この情報を掴んだ連合軍が、ボートに積まれているエニグマを狙う訳だ。


米軍潜水艦をUボートに偽装し、嵐の中を手漕ぎボートで近付くシーンもスリルに溢れている。この後銃撃戦になり、Uボートごと奪取。しかし味方潜水艦が別のUボートに撃沈され、生き残った米軍副艦長タイラー大尉(マシュー・マコノヒー)ら9人のみが、満身創痍のUボートに取り残されてしまう。艦内の表示は全てドイツ語なので、急場で発射した魚雷管の蓋の開け方が分からなくなったり、運悪く独軍駆逐艦に出食わしたりで、スリルとサスペンスを詰め込めるだけ詰め込んでいるのに感心する。乗組員に優しいのがアダとなって昇進できないタイラーの、艦長としての決断力や成長などのドラマも描かれてはいるが、これはヘンにA級ぶらずに徹底的にB級スリラーに徹した、モストウ監督の冴えた脚本と演出による頭脳プレイの勝利だろう。デビュー作である前作『ブレーキ・ダウン』(1998)でも、荒野で行方不明になった妻をカート・ラッセル演ずる夫が必死に捜し求める姿を、1シーン1シーン丁寧に緊張感を盛り上げ、尚且つ映画全体もクライマクスに向かって加速させていくのが見事だった。今回も独軍偵察機を味方と思わせてやり過ごして一安心、と思いきや、その近くに独駆逐艦が居てギョッ。さて、どうする? といった風に、サスペンスが二段構え三段構えのシーンが多いのに冴えを感じる。


映画の後半は独駆逐艦との頭脳戦となり、これは前述の『眼下の敵』を思い出させる。あちらは、クルト・ユルゲンスUボート艦長対ロバート・ミッチャム駆逐艦艦長の戦いを、スポーツの如く描いた快作だった。こちらは最近の戦争映画らしくより深刻さがあり、爆雷攻撃の激しさ/恐怖は『U・ボート』を思い出させる。最新の音響効果を駆使した迫力を味わうためにも、ここは是非設備の良い劇場で鑑賞なさることをお勧めしたい。爆雷の爆発音が段々近付く恐ろしさは、特筆ものだ。


この映画に欠けているのは、その『眼下の敵』にあった爽快感だろう。駆逐艦との闘いではカタルシスはあるものの、人の死を重々しく捉えているので、単純明快な娯楽冒険活劇にはなっていない。そこが反戦映画なのか、娯楽映画なのかどっちつかずなのだ。上映時間中は目一杯ハラハラしても、鑑賞後に何か釈然としないのはその為だろう。


無いものねだりとなるが、個人的には駆逐艦を何とかやっつけて一安心となったところに、味方である筈の連合軍が現れる。だが無線機は故障しているし、相手はこちらを独軍を信じて疑わない。今度こそ絶対絶命、というときに機転を利かして難を免れる、としたら傑作となっただろうにと思った。折角Uボートに乗っているアメリカ軍なのだから、その設定を徹頭徹尾使わない手はなかっただろうに。


U-571
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