パトリオット



★film rating: C+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1776年のサウスキャロライナ。ベンジャミン・マーティン(メル・ギブソン)は、かつては有能かつ残忍な歴戦の勇士だったが、今は亡き妻の残した7人の子供たちと平和に暮らす農夫。イギリスとの戦争にも乗り気でなかった彼だが、18歳の長男ガブリエルは平和主義の父に反発して入隊してしまう。やがて次男を冷酷なイギリス軍将校タビントン大佐(ジェイソン・アイザックス)に殺害され、自らも長男を追うように入隊。民兵を率いてゲリラ的戦略で次々に戦果を挙げ、タビントンへの復讐の機会を狙う。しかしタビントンもマーティンを誘き寄せる為に、彼の家族にさらなる酷い仕打ちを重ね、やがて両者の対決は南北の雌雄を決した「カウペンズの戦い」へと雪崩れ込む。


コスチューム劇の戦争映画は数有れど、アメリカ独立ものとは最近では珍しい。ということで、『パトリオット』の先行レイトショーを観て来た。


期待に違わぬ大掛かりな戦場シーンも、2箇所ばかり用意されている。序盤の素晴らしいスペクタクルとして、ガブリエルとマーティンが民家の2階の窓に近付くと、キャメラも窓に近付き、やがてガラスを抜け、遥か前方の草原に繰り広げられる戦場を映し出す1ショット映像が劇中のベスト・ショット。何百何千の両軍の、鮮やかな色彩の衣装を纏った兵士達が、大砲がドンパチ撃たれる最中に小太鼓のリズムに乗ってお互い並行に並び、やがて激突する様が、動く巨大な象形文字の如き見物となっている。但し膨大な兵士は特撮による増殖なのは残念。かつての様に、全て人海戦術によるスペクタクルを望むのはむべなるかな。スタンリー・クーブリックの『バリー・リンドン』(1975)にあった戦場場面を思い出した。


しかしこの映画、独立戦争を戦術とスペクタクルでもって真っ向から描いた映画化と思いきやさにあらず、2時間44分のうちの殆どが主人公がゲリラ戦術で英軍をやっつけるのが眼目となっている。メルが英軍に捉えられた息子を奪還すべく、幼い息子たちの助けを得ながらトマホークとライフルで小隊を襲撃する場面など、『ラスト・オブ・モヒカン』(1992)のパクリと思ったのは僕だけか。スピード感は撮り方が一歩上手の『モヒカン』の勝ち。こういったところに、こだわり屋のマイケル・マンと、こちらの大味演出の差を感じてしまう。それにしても、子供に人殺しを手伝わせるのは後味が良くない。こういった部分に作り手の無神経さを感じる。


メルは『リーサル・ウェポン4』(1998)での内輪受けのみのお茶らけ演技を卒業したのか、今回は至ってシリアス。復讐の鬼と化して亡き息子の残した鉛の兵隊を溶かして弾丸を作り、英軍に備えるという、一つ間違えれば大笑いのサイコ演技になりそうなところをかろうじて踏み止まっている。それにこれだけのスケールの映画を支えるのはさすが大スターのカンロクというものだろう。


この映画最大の欠点は雑なシナリオにある。『プライベート・ライアン』(1998)のロバート・ロダットによる台詞や登場人物の心理の動きは、悪い意味での劇画のよう。特に終盤のメルの心理の起伏が1場面ごとに激し過ぎるので、観ていて笑ってしまう。『プライベート〜』は、あらゆる最新の映画技術(撮影・特撮・編集・音響)を駆使したスピルバーグのテクニックによって、あれだけのインパクトがあった作品だ。はっきり言ってあちらのシナリオも構成からしてギモンだらけの内容だった。今回もロダットに徹底的に欠けている緻密さが露呈した代物でなかったか。


インデペンデンス・デイ』(1996)で大物監督の仲間入りをしたローランド・エメリッヒの演出も、いつもの大味路線を堅守。キャレブ・デシャネル(『ライトスタッフ』(1983))の撮影が如何に美しくとも、ジョン・ウィリアムズ(代表作が多すぎる)の音楽が如何に雄大かつリリカルであっても、エメリッヒ演出はいつものようにナタで刻むが如く大雑把だ。正直言って中盤はかなり退屈で、『GODZILLA ゴジラ』(1998)の悪夢よ再び、か…などと思い始めたくらいだ。


それでも『インデペンデンス・デイ』の終盤も大スペクタクルで締めたエメリッヒ。今回もラストは見せる。人海戦術(と特撮)で壮大な戦場場面を持って来た。ここは正に見せ場で、劇場の大画面で観る価値が有る。加えて音響も大迫力。是非音響の良い劇場での鑑賞をお勧めしたい。


パトリオット
The Patriot

  • 2001年 / アメリカ、ドイツ / カラー / 164分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for strong war violence.
  • 劇場公開日:2000.9.23.
  • 鑑賞日:2000.9.16./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘3
  • ドルビーデジタルでの上映。土曜夜の先行レイトショー。237席の劇場は満席。
  • 公式サイト:http://www.spe.co.jp/movie/patriot/ 予告編、スティル写真、壁紙、劇場案内なぞがあります。