リプリー



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1950年代ニューヨーク。トム・リプリーマット・デイモン)はピアノ弾きだけでは食って行けないので、ホテルボーイなどして日銭を稼ぐ毎日。ふとした事から知り合った富豪から、放蕩息子ディッキー(ジュード・ロウ)をイタリアから連れ戻すよう頼まれる。いざイタリアに着くと、そこは陽光溢れるパラダイス。ディッキーは太陽の如く気紛れで魅力的な存在で、次第にリプリーは彼に惹かれて行く。しかしディッキーに自分が拒絶された途端にかっとなり殺害。人の仕草やサインの真似が上手い特技を生かして、リプリーはディッキーに成りすましていくが・・・。


アラン・ドロンのギラギラした美貌、ニーノ・ロータの寂寥感溢れる主題曲、アンリ・ドカエ撮影の真っ青な空と海。近年になってようやく翻訳が進むパトリシア・ハイスミスの小説を映画化したルネ・クレマン監督の青春名作サスペンス『太陽がいっぱい』(1960)は、完全犯罪を企む青年の鮮烈な青春を焼き付けた作品だった。ところがこの作品、世界的には左程名作扱いされていないらしい。だから『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)でアカデミー作品賞と監督賞を受賞したアンソニー・ミンゲラが、『リプリー』としてリメイクするといっても、ミンゲラ自身それ程のプレッシャーではなかったかも知れない。


美貌のドロンに叶わないからか、最初からルックスで勝負していないリプリーマット・デイモン。縁の太い眼鏡などのメイクアップや、ホモセクシュアルな演技で、完全犯罪を成し遂げるために殺人を繰り広げる孤独な青年を上手く演じている。だがこの映画の前半を引っ張るのは、ディッキー役ジュード・ロウだ。輝く笑顔、傲慢で冷淡、気紛れな行動。儲け役ではあるが、派手な演技は人を惹きつけずにいられないし、実際リプリーが惚れるのも納得できるというもの。『太陽〜』のモーリス・ロネも傲慢さを良く出していたが、ロウの演技はその上を一歩行き、ロネを凌ぐ。一方、ディッキーの恋人役マージは、『恋におちたシェイクスピア』(1998)のグウィネス・パルトロウが演じていて、マリー・ラフォレのチャーミングさには敵わなかったようだ。


前半はヨットのセイリングやジャズ・クラブでの夜遊び、イタリア各地の観光など、派手な金持ち生活を描いていて、その行動の中にリプリーとディッキーの心理を潜り込ませる。殺人後の後半は、次第に窮地に陥りそうになるリプリーの行動と焦燥感を、他人にバレるかバレないかのサスペンスに浮かび上がらそうとする。しかし、『イングリッシュ・ペイシェント』でもそうだったのだが、どうもアンソニー・ミンゲラ監督は演出にメリハリが無い。観光気分だった前半と、危機また危機のサスペンスシーンとなる陰鬱な後半を、同じテンポで描いて良いものなのか。他人を踏み台にしてまで自分の牙城を守ろうと必死になるリプリーを、デイモンが好演しているにも関わらず、その心理が演出からは伝わらない。オープニングの洒落たタイトル・デザインや美しい撮影など、スタイルは決まっているのに、肝心の中身は薄味だった。


キャストは他に、ディッキーの鼻持ちなら無い金持ち友人役にフィリップ・シーモア・ホフマン(『マグノリア』(1999))、リプリーに心寄せる富豪の娘にケイト・ブランシェット(『エリザベス』(1999))など。この2人の上手さはさすがで、特にブランシェットのチャーミングさは予想だにしていなかった収穫だった。


リプリー
The Talented Mr. Ripley

  • 1999年 / アメリカ / カラー / 139分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for violence, language and brief nudity.
  • 劇場公開日:2000.8.5.
  • 鑑賞日:2000.8.26./渋谷東急2
  • ドルビーデジタルでの上映。公開から日が経っているにも関わらず、381席の場内は殆ど満席。お年寄りの姿も散見されたので、ひょっとしたら『太陽がいっぱい』の世代なのかも知れない。
  • 公式サイト:http://www.whoisripley.com スタッフ/キャスト紹介など。i-mode版もあります。