パーフェクト ストーム



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


とにかく凄まじい嵐が延々と続く後半は、大画面・大音響ならではの圧倒的迫力の大作。しかしそこに行きつくまでのだらだらした人間ドラマが、観ていて少々しんどいのも事実。2時間10分の話題作、『パーフェクト ストーム』を端的に評するならば、こんなところだろうか。


1991年にマサチューセッツ州を襲った、この半世紀で最大の嵐を材に取った映画の監督は、ドイツ出身のヴォルフガング・ペーターゼンだ。『U・ボート』(1981)、『ネバーエンディング・ストーリー』(1984)で世界的大ヒットを飛ばし、ハリウッドに渡ってからは『ザ・シークレット・サービス』(1993)、『アウトブレイク』(1995)、『エアフォース・ワン』(1997)と立続けに大型サスペンス・アクションでヒットを飛ばしている監督である。特に『U・ボート』は、名も無き若者たちが戦闘状態で極限の恐怖を体験する映画で、非常に優れた作品だった。


そのペーターゼンが再び海を舞台にした実話を描く、ということで期待はいやが上にも高まったのだが、出来映えは先に述べた通り。豪腕ペーターゼンの演出でも、前半の人間ドラマのつまらなさたるや、いかんともし難かったようだ。特にビル・ウィットリフ(『レジェンド・オブ・フォール』(1994))の脚本は完全な失敗である。


映画は漁の帰りに大嵐に遭遇した漁船アンドレア・ゲイル号の乗員たち(ジョージ・クルーニーマーク・ウォールバーグら)を主軸に、やはり嵐に遭遇するヨットの乗員たちと、そのヨットを救出に向かう救命隊員、漁師たちの安否を気遣う妻や恋人達を描く。漁船の内部がこうなっているとは知らなかったし、遠洋(?)漁業がこんなに大変だとは。こういったディテールが見られるのは映画ならではだ。


しかし実話とはいえ、アンドレア・ゲイル号のドラマからヨットや救命隊員に場面が移る度に、観客の注意力も散漫になってしまう。セバスチャン・ユンガーのベストセラー・ノンフィクションは未読だが、ここは思い切って救命隊員たちを主人公にしても良かったのではないか。最近の事件なので遺族に気遣ったのか、いわゆるハリウッド的ヒロイズムの俗っぽさを嫌ったのか。それがここでは裏目に出ている。特に釈然としないのは、永遠に封印された空白の時間を描いているのにも関わらず、そこにドラマとして陳腐な常套手段が使われたりすること。ビル・ウィットリフという人はクソ真面目なんだなぁ。飛躍も無ければ破綻も無い。御蔭で退屈この上ないドラマの脆弱さだけではなく、構成の無理さえ感じてしまった。


正直言ってドラマ部分で印象に残っているのは、救命隊員のジレンマや犠牲のみ。ここをさらにがっちりと描けば、特撮に負けない迫力ある展開になっただろう。無茶して嵐に突っ込んだ愚かな漁師たちは自業自得、などと思ったのは僕だけではない筈だ。


役者はアンドレア・ゲイル号メンバーに、先のクルーニー&ウォールバーグ、ジョン・C・ライリー、『コンタクト』(1997年)の盲人学者から打って変わって二の腕の太さを見せつけるウィリアム・フィクトナー。ヨット乗員にカレン・アレン、ボブ・ガントン。クルーニー船長の友人でライヴァル船長にマリー・エリザベス・マストラントニオ。こうしてみると中々良い役者を揃えている。地上で待つ恋人たちにダイアン・レイン、TV『シネマ通信』のラスティ・シュウィマーら。それにしても、『レイダース/失われたアーク』(1981年)のヒロイン役アレン、『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年)の歌姫レインが印象に残っているこちらとしては、ご両人がすっかり老けたのに感慨深し。


アポロ13』(1995年)、『タイタニック』(1997年)などで有名な、売れっ子ジェームズ・ホーナーの音楽は、相変わらず自作の使い回しと他人からのパクリの垂れ流しで、興醒めすることこの上ない。今回は『スター・トレック2/カーンの逆襲』(1982年)の使い回しが目立っていたし。その『2』でさえ、どっかからの使い回しかも知れないところに、この映画音楽屋の底知れぬ怖さがある。『M:I-2』(2000)のハンス・ジマーといい、ホーナーと言い、いわゆる売れっ子作曲家が単なるリサイクル屋に成れ果ててしまって、腹立たしさを通り過ぎて呆れるしかない。何でこんな連中を起用するのか、プロデューサー連中の神経も理解しがたいですな。プロデュサーなんて映画音楽そのものはロクに聴いていなくて、人選は過去の作品リストで決めている?


しかし映画は見世物とはよくぞ言ったもの。後半、パーフェクト・ストームが暴れ出すと、つまらないドラマもあっという間に吹き飛んでしまう。中規模のハリケーン「グレイス」と、寒冷高気圧、爆弾低気圧の三つが合体した観測史上最大と言われるこの気象現象。今までは『ハリケーン』(1979年)(つまらない映画でした。ジョン・フォード監督の1938年版は面白いらしいけど)、『ツイスター』(1996年)と、この種の映画では主に地上側から描いていたのに対し、ここでは360度逃げ場の無い海上が舞台である。四方八方から10メートル級の大波と、暴風雨が襲い来る様は迫力満点だ。これは劇場で観る価値がある。とてもじゃないがヨットで太平洋旅行しようなんて気は起こらなくなる。


そして揺れをとっくに通り越し、波の上を転がる船で大波と強風に耐えて悪戦苦闘した、アンドレア・ゲイル号のキャストたちには努力賞を進呈しよう。俳優とはつくづく体力のいる職業のようである。


パーフェクト ストーム
The Perfect Storm

  • 2000年 / アメリカ / カラー / 129分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for language and scenes of peril.
  • 劇場公開日:2000.7.22.
  • 鑑賞日:2000.8.5./渋谷パンテオン
  • SDDSでの上映。土曜日昼の回、1119席の劇場は4割程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.perfectstorm-japan.com プログラムにも載っている、天気予報士森田さんのコメントが読めます。