TATARI タタリ


★film rating: C
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


猛暑の中、ひんやり気分を期待してホラー映画を観て来た。北米では1999年にハロウィーン公開された幽霊屋敷ものだ。


この『TATARI タタリ』という映画、設定は昨年公開された『ホーンティング』に似ている。過去に陰惨な事件が起こった広大な屋敷に呼び集められた、互いに見知らぬ男女数名が、屋敷に巣食う亡霊に襲われるというもの。


なんだ、パクリじゃないかと言う無かれ。『ホーンティング』のオリジナル版は巨匠ロバート・ワイズが『ウェスト・サイド物語』(1961年)と『サウンド・オブ・ミュージック』(1964年)の間に監督した名作『たたり』(1963年)」のリメイク。この『TATARI』は知る人ぞ知る怪奇映画、ウィリアム・キャッスル監督の『地獄へつゞく部屋』(1958年)のリメイクなのだから。あーややこしい。


さて、物語はというと、幾つもの遊園地を持つ興行主プライス(ジェフリー・ラッシュ)が、美しい妻エヴリン(ファムケ・ヤンセン)の為に、過去に生体実験を行っていて閉鎖された精神病院に客を集め、誕生パーティを開こうするところから始まる。このプライスは勿論、オリジナル版で主役を演じていたヴィンセント・プライスから取られているのだろう。口髭まで生やして大袈裟なはったり演技のラッシュは実に楽しい。またこの夫婦、愛情が冷めているのだか本当は愛し合っているのか見ていて分からず、互いに化かし合っているようなのが興をそそる。


妻が作ったリストはシュレッダーに掛け、プライスは勝手に客たちを集める。ところがいざ客(ピーター・ギャラガー、ブリジット・ウィルソン、アリ・ラーターら)が集まると、プライスが招待状を送った覚えの無い人物ばかり。当然、エヴリンも面識が無い。皆、互いに知らない人ばかりなのだ。夫婦同士で、”あっちが集めたんだろう”と疑心暗鬼になる最中、プライスは「一晩ここで生きて世を明かせたら、100万ドル上げよう」と宣言。あくどいイタズラ好きのプライスは、実はこっそり部下を隠し部屋に配置して、仕掛けで客たちを驚かせようという作戦だ。ところが部下は殺され、やがて1人1人と惨殺事件が起こっていくのだった・・・。


冒頭から惨たらしいシーンで禍禍しく幕を開け、編中もおぞましいイメージで客を驚かせようというウィリアム・マローン監督のこの映画、はっきり言って全然怖くない。初日土曜第1回の劇場は、R-12指定のホラー映画ということもあってか、女子中高生でごったがえしていたが、本気で怖がった人はどれだけ居たのであろうか(いや、居たかも)。「おっ」と思ったのは、フランシス・ベーコン風の怪奇人間(?)が一瞬映り、TVリポーターが恐怖の体験をするシーンくらいで、後は監督の腕前も秀逸とは言い難かった。


クライマクスでは亡霊が映像化されて登場するが、『ホーンティング』といいこれといい、どうも幽霊を実体化させると想像力を奪われて怖くない。しかも亡霊は辻褄が合わない設定なのだ。プライスが招待状をEメールで送信したつもりが、亡霊は宛先を改ざんしてしまう。でも生き残った人たちが、最後は屋敷の外に出て一命を取りとめたのだから、屋敷の外は霊力が及ばないことになる。すると屋敷の外でのメール書き換えも出来無いのではないか。こういう辻褄はきちんとやってくれないと。


実は精神病院が患者の叛乱で焼け落ち、その生き残りの職員の子孫に復讐を果たすために、生体実験となった患者たちの亡霊が客を呼び集めたようで、ユカイなのは追い詰められた客の1人が「俺は子孫じゃないっ!」と叫ぶと亡霊が一瞬ひるむところ。元々人を食った仕掛けで有名だったウィリアム・キャッスル作品が元ネタなのだから、まぁ良しとしよう。観客席に電流を流したり、クライマクス前の画面に時計を出して「あと30秒以内に犯人を当てられるかな」とナレーションを出したり、と伝説の監督なのだから。その意を汲んでか、日本の配給会社GAGA-HUMAXも劇場受付前に生命保険受付を置いたり、ドルビーデジタル・サウンドを”タタリ・サウンド”と命名したり、プログラムを買うとロゴ入り手術用手袋が付いていたり、とサービス満点。『恐怖新聞2000』なる新聞を模したチラシ(無論、つのだじろうのコメント入り)まで作っていた。


こういった宣伝はかつて流行っていて、『サスペリア』(1977)はサーカム・サウンド、『ファンタズム』(1979)はビジュラマ、『死霊のえじき』(1985)はゾンビング・サウンド、最近では『コモド』(2000)はコモド・サウンドなどとアヤしいシステムが命名されていて、独立系配給会社の”分かっている”戦略が何とも微笑ましい(涙ぐましい?)。


映画は今一つでも、そういったところが個人的には非常に楽しめた。


製作は『マトリックス』(1999)のジョエル・シルヴァー、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)、『コンタクト』(1997)などのロバート・ゼメキスが当っている。どうやらこういったホラー趣味はゼメキスの趣味らしく、この映画はホラー専門プロのダークキャッスル第1作目となったのだ。


TATARI タタリ
House on Haunted Hill

  • 1999年 / アメリカ / カラー / 96分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for horror violence and gore, sexual images and language.
  • 劇場公開日:2000.7.22.
  • 鑑賞日時:2000.7.22.
  • 劇場:渋谷東急3 タタリサウンド(ドルビーデジタル)での上映。初日土曜第1回目の上映、374席の劇場は、R-12指定のホラー映画ということもあってか、怖いもの見たさの(?)女子中高生でごったがえしていた。
  • 公式サイト:http://www.tatari.net/ 予告編なぞが見られます。