エニイ・ギブン・サンデー



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ベテランコーチのジョー・ダマト(アル・パチーノ)は、「勝つよりも大事なことがある」という信念の持ち主。ビジネス最優先のアメフト業界の中では古いタイプの人間だ。ビジネス最優先のオーナー(キャメロン・ディアス)とうまく行く筈もない。ダマト率いるマイアミ・シャークスは4連敗、プレーオフへの出場が危うい状況だ。おまけに信望厚いベテランのクォーターバックデニス・クエイド)は大怪我を負い、代わりに出場した新人(ジェイミー・フォックス)はフィールドで緊張の余り嘔吐する始末。こんな過酷な状況の中で、シャークスがプレイオフ出場出来るのか。


プラトーン』(1986)、『ウォール街』(1987)、『JFK』(1991)などの過激な社会派として知られるオリヴァー・ストーンの『エニイ・ギブン・サンデー』は、非常にエキサイティングなスポーツ映画だ。そして・・・これが重要だが、スポーツの後のような疲労感も実感出来るのだ。


開巻20分、観客はいきなりアメフトのゲーム真っ只中に放り込まれる。目撃するというのではない、まさにフィールドの中にいるという臨場感。スコープの横長画面いっぱいに映し出される、防具に身を固めた雄牛のような大男たちがぶつかりあう様は圧巻だ。さらにはスローモーション、コマ落とし、手ぶれ、フォーカスのずれなどありとあらゆる撮影技法と、めまぐるしい編集で視覚を直撃する。


いやはや過剰な映像とはこのこと。加えてグゥシャッ、バキィッ、ドゴォッと痛さの伝わる効果音も過剰気味。僕はアメフトのルールを知らないのだが、とにかく圧倒された。


ストーンはここに、一躍脚光を浴びる新人選手、それに焦るベテラン花形選手とその妻、新人選手とコーチとの確執、フロントとコーチの確執、チームの移転問題、怪我よりも勝利最優先の医師などのエピソードを散りばめる。話しが分かりにくくなることは無く、脚本と演出の手際良さが光る(脚本はストーンとジョン・ローガンの共同)。


それでも、このような濃いドラマが役者陣の濃い演技で演じられているにも関わらず、インパクトが弱く薄味に感じられた。これはドラマ部分にまで過剰な映像を持ち込んだ結果だ。1ショットが10秒以上続くことは無く、編集は小間切れ、常にキャメラは動き、空や流れる雲の映像がダブり、画面は幾重にも分割され・・・そして演技が分断されてしまったのだ。ストーンは自らの映像テクニックに溺れてしまった。アル・パチーノの燃える演技をじっくり味わいたい人。その人は同じ2時間半の映画でも『インサイダー』(1999)を観に行くべきだ。パチーノとラッセル・クロウの白熱がじっくり堪能出来るからだ。


物語は架空のアメリカン・プロ・フットボールを背景にしている。ユニフォームやチーム名も、全て映画用に創造されたもの。しかしゲームそのもののルールや、完全分業制となっているチーム内での体制などは事実に即しているようだ。特に興味深かったのが、その分業制。現場はプレイヤー、コーチ、コーディネーター(作戦立案者)と役割が分かれている。3者はヘッドフォンで結ばれ、ゲームの間は連絡を密にしている。がっちりした組織とハイテク。アメリカそのものだ。


現場の上にはさらに組織化されたフロントが構えているのだが、この映画にはオーナー以外は余り触れられていない。いつものストーン映画ならばさらに踏み込んで、組織の腐敗を偽悪化してまで描こうとしたかも。しかしこの映画はフィールドで闘う男たちを切り取った作品。あくまでもスポーツ映画なのだ。


クライマクス、勝てばプレイオフのゲームが描かれる。ジョー・ダマトはゲーム前に檄を飛ばす。彼は静かに語り始め、やがて選手共々盛り上がる。このシーンで彼が言う「無駄に生きるな、熱く死ね」という台詞は、歴代スポコンものに負けず劣らずの名台詞。燃える選手と共に、観客も激戦の只中に飛び込む。ルールなぞ分からなくても良い、この迫力、緊張感。ラスト4秒でへとへとになったら、それはあなたも”熱く死ね”た証拠だ。


それからラストのオチでニヤりとさせられホッとしたら、心地良い疲労感に襲われる筈。スポーツで全力を出し切った後のように。


エニイ・ギブン・サンデー
Any Given Sunday

  • 1999年 / アメリカ / カラー / 152分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for strong language and some nudity/sexuality.
  • 劇場公開日:2000.5.27.
  • 鑑賞日時:2000.5.27.
  • 劇場:渋東シネタワー1 ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜朝一の回、610席の劇場は5割程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.anygivensunday-jp.net/ キャスト紹介などはプログラムよりも詳しいです。