ミッション・トゥ・マーズ


★film rating: C+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


世の中にはトンデモ映画と呼ぶべき映画がある。まぁ大体は、いわゆる低予算B級映画な訳だが、超大作が乱造されるこのご時世、へんてこりんな作品が誕生する可能性もあるのだ。


ディズニー映画(レーベルはタッチストーン)の大作SF『ミッション・トゥ・マーズ』も堂々その仲間入りの作品だ。いや実際、余りにも変な作品なので、個人的な愛着まで出てきそうな映画なのだ。


オープニング、宇宙飛行士とその家族たちが集まるホームパーティの場面から、映画は幕を開ける。ステディカム撮影による滑らかなキャメラワークと長回し・・・あ、そうそう、言い忘れていたが、これはブライアン・デ・パルマ監督作品。『キャリー』(1976)、『殺しのドレス』(1980)、『アンタッチャブル』(1987)、『ミッション:インポッシブル』(1996)などのサスペンスの名手だ。どの作品にも自らの刻印を消せない映像派は、早速人々の間を縫うような映像で技を披露、といったところか。宇宙へ旅立つパパと幼い息子の、はにかみたくなる描写なぞがお目見えする。


このシーンだけではなく、映画全体に言えるのはセンチメンタリズム溢れる人物描写で、いやはや、ドラマシーンになると哀れなくらい安っぽい。普段は優秀なアクション映画の脚本家たち(『エグゼクティブ・デシジョン』(1996)のジム&ジョン・トーマス、『スピード』(1994)のグレアム・ヨストら)は、観客の鼓膜を痛める台詞しか描けなかったのだろうか。ティム・ロビンスゲイリー・シニーズドン・チードルといった俳優たちにとっても、全くの才能の無駄遣いな脚本だ。


ドン・チードル率いる人類初の有人火星探検の第一隊は、強力な磁気を発する山を発見する。アポロ12号のアームストロング船長並みに仰々しい、人類初の第一歩のシーンを見せることなくすっ飛ばしだ。それでも火星の荒涼とした風景は大作に相応しい。往年の『宇宙征服』(1955)などに比べて雲泥の差。やはり技術の進歩は素晴らしい。


その巨大な岩山に隊員4人が近付くと、『デューン砂の惑星』(1984)の砂虫みたいなもの凄い竜巻が起こり、隊員らに襲いかかる。ここは映画の中でもかなりの見せ場。デジタル音響システムの劇場で体感すると良いだろう。隊員達を襲った後、岩山の下からは巨大な人工物が現れ、それが人面石(”宇宙人”面石?)なのがご愛嬌。まさかこの映画のスタッフは、火星の人面石写真を本気で信じているんじゃないでしょうなぁ。


1人生き残ったチードルを助けるために、ロビンス、シニーズ、ロビンスの妻コニー・ニールセンジェリー・オコンネル(『スタンド・バイ・ミー』(1985)の太っちょ君も大きくなりました)ら、火星探検第二隊が救出に向かう。道中みせる夫婦の無重力ダンスや、病気で亡くした妻の面影に涙するシニーズらの描写は無視しよう。これらのシーンに、撮影技術以外で語るべき価値はない。


いよいよ火星に近付き着陸準備、というときに宇宙船は事故に見舞われる。大破した宇宙船から軌道上近くにある別の小型宇宙船に遊泳して乗り移ろうとするこのシーンが映画のベスト。宇宙空間の高所/広所の恐怖が感じられ、静かでありながらも手に汗握らせる。最近のSF映画には、『2001年宇宙の旅』(1968)、『エイリアン』(1979)、『ブレードランナー』(1982)にあった、その手の恐怖感が無いものばかり。『アポロ13』(1995)でさえそうだった。そんな中、デ・パルマらしい緊迫感の引き伸ばしも発揮され、エンニオ・モリコーネによるオルガンを使った音楽も不思議なスリルを盛り上げる。このシーンと前述の竜巻シーンだけは劇場で観る価値がある。


但し、わざわざ劇場で観る価値があるのはそこだけなだな、本当に。


尊い犠牲を払いながらも(あぁまた涙だ)一行は火星に着陸。ドレッドヘア野人と化したチードルと合流して謎の人面石に向かう。この後の展開は『2001年〜』であり、『未知との遭遇』(1977)であり、『アビス』(1989)であり、『スフィア』(1998)であり・・・もうお分かりだろう。過去のSF映画のパクリだ。


と、ここで気付いたのが、映画の構造自体が『2001年〜』に似ていること。なぁ〜んだ、あれの頭の悪いリメイク版かぁ! どうりで宇宙船のデザインがディスかバリー号に似てる訳だ。


でも、あの怪作『宇宙から来たツタンカーメン』(1981)だよな、この映画の作りは。謎のミイラが夜な夜なキャンパスを徘徊するホラー、ところがいきなりラストが『E.T.』(1982)」に変身するという、超ブッ飛び作だ。


序盤・中盤の大迫力シーンに比べ、後半は余りに安易な作り。その落差が激しい為、話のスケールは大きくなるのに映画はトーンダウン。それでも僕はこの映画に愛嬌を感じてしまった。また、偏愛などという大袈裟なものではないだろうが、あの怪作『ロボコップ2』(1990)を思い出してしまったのだ。後半、フィル・ティペットのアニメートによる悪役ロボットに映画を乗っ取られた、前半と後半がまるで違う、あのいびつな作品だ。
スタッフ/キャストにそれなりの顔触れを揃えながら、こんな珍品を作り上げるハリウッド。大手スタジオもまだまだ侮れない。


好事家にはお勧めの1本だ。


ミッション・トゥ・マーズ
Mission to Mars