アイアン・ジャイアント


★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

時はソ連が人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた1957年、舞台はアメリカの田舎町。ある晩のこと、天空から火の玉が落ちてくる。その正体は巨大なロボット。発見者のホーガース少年は、彼にジャイアントと名付け、仲良くなる。ジャイアントは大人しく、学習能力に優れ、すぐにホーガースと意思が通じ合うようになる。それだけでなく、故障個所を自力で修復する機能も有しているのだ。彼の食べ物は鉄クズ。ホーガースはスクラップ業者であり、スクラップを使う芸術家でもあるディーン(声:ジャズミュージシャン兼俳優のハリー・コニック・Jr)の協力を得る。だが彼らには、共産圏の侵略というパラノイアに取り付かれた政府のエージェント、ケントの魔手が伸びようとしていた。


手垢の付いた使い古されたテーマも、作り手の真摯さによって新たな魅力となり得ることがある。ブラッド・バード監督のアニメーション『アイアン・ジャイアント』は、その好例と言えよう。


少年とロボットの物語、というテーマは今更目新しくもない。しかしその友情物語を正攻法で描いているため、こちらも嫌味無く見られる。また時代を1950年代後半に設定した為に、ケントに代表される当時のアメリカ全体を包んでいた共産圏への恐怖が、無垢なる存在であるジャイアントを抹殺し得る狂気へと変化していくのも説得力がある。猜疑心から平和は生まれることが無い、というメッセージも納得がいくものである。


こういったドラマ部分を説得力に欠ける事無く90分弱の上映時間に収められるのも、省略を思い切って用いられるアニメ映画ならでは。ホーガースと、朝鮮戦争で夫を亡くしたウェイトレスの母親(声:ジェニファー・アニストン)との関係も、実写だといちいち説明してまどろっこしくなっていただろう。また、彼女とディーンとのムダな恋愛なぞという展開にさせず、必要なドラマのみ簡潔に描いている点でも素晴らしい映画だ。


ジャイアントは普段は大人しいロボットだが、例えおもちゃであっても銃を向けられると、本人の意思に関係無しにとっさに目から光線を発して反撃してしまう。また怒りが最大限になると変身して、相手を徹底的に叩きのめす無敵の殺戮ロボットと化すのだ。これは単に銃反対のメッセージが込められているだけではなく、優れた人間のメタファーでもある。


しかしジャイアントはホーガースからの教えや、彼との関係と通して学習していき、それが胸を打つクライマクスへと展開していく。ここから真に学ぶべきは人間自身であろう。


非常に道徳的な内容ながら説教臭くなく、何よりも娯楽映画として上出来に仕上がっていることを評価したい。


アイアン・ジャイアント
The Iron Giant

  • 1999年 / アメリカ / カラー / 87分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG for fantasy action and mild language.
  • 劇場公開日:2000.4.15.
  • 鑑賞日時:2000.4.22.
  • 劇場:ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘6 ドルビーデジタルでの上映。土曜夜のレイトショー、170席の劇場は3割程度の入り。一見パンクな兄ちゃんが泣いていたのが印象的だったなぁ。
  • 絵本のような頑丈な表紙のプログラムもお薦めです。
  • 日本語公式サイト:http://www.warnerbros.co.jp/movie/irong/index.html
  • 公式応援サイト:http://www.mnet.ne.jp/%7Eisuta/igtop.html メイキングやスケッチ画から、日本での上映までの道のりも書かれているお薦めサイトです。余談ですが、ここのコメントに「藤子・F・不二雄の『鉄人をひろったよ』を思い出させる」とあったので、今読み直したら・・・ははは、そういえばこんな内容でしたね。て、分かる人しか分からないだろうけど(C君くらいか?)。