スリーピー・ホロウ


★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

18世紀末、ニューヨーク北にあるオランダ移民の村スリーピー・ホロウで起こった連続殺人事件。発見された3人の遺体はいずれもすっぱりと首から先を切断され、頭は行方不明だった。ニューヨークから送り込まれた警官イカボッド・クレイン(ジョニー・デップ)は、科学的かつ論理的な捜査を進めようとする。合理主義者の前に出現したのは、首無し騎士(Headless Horseman)。果たして夢か幻か。さらに殺人は続き、やがて村の秘密が明らかにされていく。


全編かなり力の入った演出で見せるこの映画、首無し騎士登場は颯爽と登場、首が刎ねられるシーンはこけおどしと簡潔さが融合し、アクションシーンはダイナミック、デップと善の魔女(クリスティーナ・リッチ)のキスシーンは美麗な絵画のよう。エマニュエル・ルベツキーによる色彩を排したモノクロに近い映像は美しく、1ショットづつ見事な構図。バートン作品常連ダニー・エルフマンの音楽も不気味に盛り上げる。今までののらりくらりとしたバートン作品とは一味違う、ある種の風格さえ漂う豪速球で勝負、と見せかけて、実は彼らしい作風も随所に楽しめる懐の深さ。珍妙な小道具を鞄からぞろぞろ出すイカボッド、恐ろしい場所に来ると女子供を楯にする小心さ、すぐに気を失う情けなさ。デップのユーモアを湛えた暗さは絶好調だ。


また、主人公に出張命令を下す市長に、かつてのハマー・プロ作品でドラキュラを演じていたクリストファー・リーを起用するなど、『シザーハンズ』(1990)で発明家役に故ヴィンセント・プライスを使ったのと同じく、自らの憧憬をとり込む余裕も見せる。


バートンの過去の作品からは、若干の作風の変化が見え隠れする。前々作の『エド・ウッド』(1994)辺りからオタクの悲哀も影が薄れ、『マーズ・アタック!』(1996)ではやりたい放題のネアカvs.ネクラパワーが激突していた。奇しくも『エド・ウッド』以降は恋人リサ・マリーとの仕事。今回も出番は少ないながらも、イカボッドの母親役で幻想シーンに登場しているミューズは、バートンに少なからず影響を与えた、というのは下司の勘ぐりだろうか。


『セブン』(1995)、『8mm』(1999)のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーによるシナリオは入り組んでいて、事件の真相は非常に理に落ちたもの。ここは好みが別れる所だろう。個人的には曖昧さを残しても良かったのではないか、と思った。いつものバートン作品とどこか違うのも、この合理的という大人っぽさせかも知れない。


それでもこういったジャンルが好きな僕は、この作品を大変楽しめた。暗闇で1人蹴鞠遊びに耽るバートンには変わりない。『ビートルジュース』(1988)、『バットマン』(1989)、『シザーハンズ』にあったマニアックでオフビートな作風と、正攻法な大作ゴシック・ホラーの幸福な結婚と言える。


スリーピー・ホロウ
Sleepy Hollow

  • 1999年 / アメリカ / カラー / 105分8秒 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for graphic horror violence and gore, and for a scene of sexuality.
  • 劇場公開日:2000.2.26.
  • 鑑賞日時:2000.2.26.
  • 劇場:渋東シネタワー2 ドルビーデジタルでの上映。初日・初回の825席の映画館は7割ほどの入り。エレベーターで小学生2人を連れたお母さんが「怖くっても知らないわよ」と言っていた。小学生でもそんなに怖くはないかも?
  • 公式サイト:http://japan.sleepyhollowmovie.com/index_day.html スクリーンセーバーや予告編、壁紙なぞがダウンロード出来ます。