シックス・センス



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


観る前の予想を裏切られた映画との出会いは嬉しいものだ。事前の勝手な予想では『エンゼル・ハート』(1987)のような禍禍しい映像のある『チェンジリング』(1979)のような映画、などというもの。『チェンジリング』は実際に映画を観てもいないのだが、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)上映前にやっていた予告編の怖かったこと。特に、先日亡くなったジョージ・C・スコットに車椅子が襲ってくるシーンは未だに覚えている。いやぁ、おっかなかった。今は見てみたいものだなぁ。


それはともかく流血描写の無い、それでいておぞましい心理ホラーを予想していたのだ。ところが実際に観てみると全然違っていた。


ブルース・ウィリス演じる医師マルコム・クロウは、子供の心の病を治療する為に一身を捧げてきた男だ。ところが10年前に治療にあたった少年を実は自分が救えなかったことを知り、精神的に大きなダメージを受けてしまう。それ以来、仲睦まじかった妻からは心を閉ざされ、仕事でも家庭でも精神的な危機を迎えている。彼の新しい患者はコール(ハーレイ・ジョエル・オスメント)という8歳の少年。コールは学校でも人間関係がうまくいかず、母親にも心を閉ざし、そして何かに怯えていた。コールの心に一歩一歩近付いて行くマルコム。やがてマルコムは少年の秘密を知ることになる。


最近のハリウッド映画の中ではタイトな方の1時間47分のこの映画。監督・脚本のM・ナイト・シャラマンは、その内の最初の1時間をかけてじっくりと人間を描く。少年の周りで起きる怪異の描写も、ほんのさわりだけにとどめるのみ。堅実でがっちりと言えば聞こえは良いが、ホラーを期待していたこちらとしては悪くは無いけど退屈の2歩手前。特殊メイクがスタン・ウィンストン・スタジオ、特撮をドリーム・クエスト・イメージズといった一流会社が担当しているのに、画面にはそのかけらも見当たらない。それどころかありふれた家庭映画の如く、マルコムとコール、コールと母親の関係が描かれ、マルコムが妻と疎遠になっている描写に触れられる。心理ミステリ風のドラマ、とでも言おうか。


映画の中盤でようやく明かされる少年の秘密=特殊能力自体は、こちらは予備知識として知っていたもの。待ってました。これでようやくホラーらしくなる。それからはコールの感じる恐怖は観客のものとばかり、地味ながら怖いシーンが淀み無く続いていく。脚本も演出も不必要な流血描写は避け、敢えて心理的な緊張感を描こうとしている。ところが雰囲気は全然禍禍しくありません。単なるこけ脅しすら殆ど排除されている。「何だか思っていたよりもマジメな映画だなァ」。いかにもホラー、を期待していた当方は、はぐらかされっぱなしだった。


ウィリスは押さえた演技で好感が持てる。ヤル気が無い『ラスト・ボーイスカウト』(1991)、ナルシスティックなだけの『ジャッカル』(1997)などとは雲泥の差。『パルプ・フィクション』(1994)、『12モンキーズ』の好演が思い起こされる、弱い面も持った等身大の人間を演じている。特に演技が上手い訳ではないが、仕事に熱中し過ぎて妻との時間を満足に取れなかったのを後悔する姿も納得できるものだった。


だがこの映画ではウィリスは助演。主演は何と言ってもコール役のハーレイ・ジョエル・オスメントだ。外見の可愛さを差し引いても、難しい役なのに観客の感情移入を誘っている。こういう子役がアメリカには居るのだ。彼こそがこの映画最大の衝撃なのだ。


それでも先に書いたように、散々はぐらかされた映画だった。何だこの程度か、何でこんな地味な映画がアメリカでリピーター続出の大ヒットになったんだ、と。


ところがあ〜っと驚くラスト。それまで淡々としていたドラマとこのシーンが、いきなり観客の脳の中で有機的に結びつき始める。突然の不意打ち、ここで背負い投げを食らった気分だった。エンドクレジットが流れる中、僕は頭の中でドラマを逆算してしまった。そうするとあるある、言われてみれば思い当たる節が随所に。映画を観終えてからやられたと思ったのは久し振り。観ている間よりも、終わってからの印象が強烈だ。アメリカでリピーターが続出したのも頷ける。ナルホド、こういうことか。


アメリカで大ヒットしたのは、ホラーとメロドラマの融合が非常に上手くいったからだろう。こういった部分に、ジャンル映画でありながら大衆向けの作品に仕立てたM・ナイト・シャマランのしたたかな素質がある。


単にショッキングなだけでなく、ドラマとしても1本取られた気分だった。このラストから映画のテーマが幾つも浮かび上がってくる。ショッキングで怖いと同時に悲しく、さらに希望も感じさせる映画というのは稀有であろう。恐怖と希望は本来相反するものの筈。ところが生と死に切り込んだこの映画では、それが同時に存在するのだ。人の死をいかに受け入れていくか。人と人のコミュニケーションとは何か。この2つが映画の大きなテーマだったのではないか。前者に関しては、監督がアメリカ育ちのインド人なのも関係があるのかも知れない。西洋思想とは違うものを感じた。


誰もが避けて通れぬ死。生も死も人生の一部だなのだ。


シックス・センス』を単純にホラーと呼ぶのは気が引ける。観客の目に触れさせずに、様々な内容を包括したドラマ。そう言える真摯な佳作だろう。配給会社がアヤしいキャッチコピーで有名な東宝東和、おまけに映画の冒頭で「この映画の秘密はご友人などにお話しにならないようにしてください−ブルース・ウィリス」などと字幕で出るものだから、ゲテものとは大違いの内容は余計に予想外だった。


シックス・センス
The Sixth Sense

  • 1999年/アメリカ/カラー/107分/画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense thematic material and violent images.
  • 劇場公開日:1999.11.5.
  • 鑑賞日:1999.10.22./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘1/ドルビーデジタル
  • 観たのは新百合ヶ丘での先々行上映。7時半からの回で452席の劇場は満席。
  • 公式サイト:http://www.six-sense.com 映画のエンドクレジットの最後、HP用パスワードが出てきます。パスワードを入力すると、抽選でプレゼントが当たるそうです。